「声を上げることを恐れないで」。「虎に翼」脚本家の吉田恵里香と考える、社会を変える最初の一歩。
「味方は見えないところにきっといる」
自らは家族の支えもあり、恵まれた環境にあるとしながら、「恵まれた環境だからこそできることもある。恵まれているお前が言うな、じゃなくてみんなで社会をよくしていけるといい」。そのためには声を上げる必要があると吉田は続ける。 「子育て中で時短勤務で働いている女性は、お給料が減っているのになんとなく後ろめたさを感じてしまう。同僚はその分余計に働かなくてはならなくて不満に思っている。不満の吐け口は立場の弱い人に向けられがちだけど、訴えるべきは会社の上層部。そこで声を上げる人がいれば、世の中は少しずつ変わっていくのではないでしょうか」 社会を変えるためには声を上げていくこと。それはドラマでも繰り返し描かれてきた。「たとえ法廷で勝訴できなくとも、誰かが声を上げたという事実は判例として残るんです。すぐに成功体験に繋がらないかもしれないけれど、最初の一歩を信じて踏み出してほしい。私はこの作品を描いたことで味方が増えたと感じています。同じ志や気持ちを抱えている人がいることに気付けた。味方は見えないところにきっといる。私も挑戦する人の味方でありたいと思います」 声を上げることをためらっている人に向けてアドバイスを尋ねると、「よく、『私はフェミニストではありませんが......』と前置きする人がいますが、自分がどちらかに偏ることに恐怖を抱いている人は多い。いまのスタンダードだってもともとはどちらかに偏った人たちが作ってきたものなんだから、それを恐れていては新しいスタンダードは生まれないですよね」 ただしどんな時でも自分本位でいてほしいと付け加えた。「心が折れてしまうと立ち上がるのに時間がかかります。無理せず全部背負わなくていい。いまはお休み中だけど、頑張っている人の応援をする、でもいいと思う」 社会がうまく回っていないとき、人は過度な道徳観でお互いを縛ろうとする傾向にあると吉田は言う。そんな時に人々の心に寄り添ってくれるのがエンターテインメントだ。「報道ではなくて娯楽を作っているのだから社会的責任はありません、という時代じゃない。私にできることは少ないかもしれないけれど、光の当たらない人たちに向けて響くようなメッセージを伝えていきたいです」 吉田恵里香 1987年生まれ。脚本家・小説家。2011年よりテレビアニメやドラマの脚本を数多く手がける。『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(20年)ではBLの世界をていねいに描き、数々の賞を受賞。『恋せぬ二人』(22年)ではアロマンティック・アセクシュアルをテーマにし、第40回向田邦子賞を受賞。4歳の子どもの母親でもある。 photography: Yuka Uesawa hair & makeup: Kaori Kubota (AKA) text: Junko Kubodera