燃え殻エッセイ 僕が覚えた「足裏もみ」が大人になって役立った話 「風呂場で思い出すのは若き日の父の姿」
「疲れが取れるだろ?」祖母が揉みながら聞いてくる。 「全然疲れてないよ!」 くすぐったさをこらえながら僕はそう答えた。 そりゃそうだ。こっちは小学校の低学年だ。五十を越えたいまの僕なら、隙あらば「足裏マッサージに行かせてくれ」とあらゆるスタッフに懇願するが、当時は足がだるいという感覚すらなかった気がする。そしてしばらく僕の足の裏を揉んでいた祖母が、「はい、じゃあ交代」と言って、自分が履いていた足袋を脱いで、僕のほうに両足を放り投げた。
なんてことはない、立ち仕事で疲れた祖母が、孫に足を揉んでほしくて、最初にデモンストレーションを見せてくれただけだった。そこからかなりの長い時間、祖母の足の裏を僕は揉まされる。最後のほうは、「もっと土踏まずを強く押して。足裏マッサージがうまいと、良いことがあるんだから」となんの根拠もないことを祖母は確信を持って、あの頃よく言っていた。 ■足の裏、揉み合いっこしましょう テレビ番組のロケ仕事をしていたときのことだ。集合時間、午前四時。場所は新宿西口。前の日のロケは午前一時までやっていた。そのロケの解散した場所は新宿西口だった。つまり、ただの三時間休憩だった。スタッフは全員、漫画喫茶や車中で仮眠を取って、再度、新宿西口に集合した。
ワゴン車四台にわかれて、次のロケ場所まで移動する。僕の乗ったワゴン車には、とある国民的女優が乗っていた。彼女もさすがに疲れているようで、大きなあくびをしている。マネージャーが、彼女に目薬を渡したり、温かいお茶を飲ませたりしていたが、そのマネージャーすらウトウト眠ってしまった。すると、彼女が僕に話しかけてきた。 「この間、手相みてもらったら最悪だったんですよ。仕事運が今年の終わりからガタ落ちらしくて……」
「いや、これからは絶対忙しいですよ。来年も再来年も」 僕はヨイショではなく、本音でそう返した。「手相とかみれます?」 彼女は僕にそう聞いてくる。 ■足裏マッサージだけは… 手を握れるチャンスが突然降って湧いた。しかしこちらも過労で、フラフラの状態だ。手を握るよりも、「とにかく休みたい」が勝ってしまう。 「いやあ、手相はまったくわからないです。昔、足裏マッサージだけは祖母に仕込まれましたけど……」と、会話を終わらせるために僕はそう答えた。するとその某国民的女優が意外にも乗ってくる。