「教育」と「楽しい!」って両立する? トラウデン直美が探る、幸福度まで上がる教育のヒント
トラ 久本さんが視察された海外では、教育に関してまた違うアプローチがあるとか? 久本 50か国ほど巡って特に印象的だったのが北欧で、国から自治体、自治体から学校、校長から先生へと「信じて任せる」姿勢が貫かれています。先生もまた、子供たちを信じて、サポート役に徹する。この信頼の連鎖は家庭や会社でも浸透していて、トップダウンがほとんどないんです。一人ひとりの意思や選択が侵されないからこそ、幸福感や前向きな気持ちが保たれ、その人たちの労働が安定的な納税につながり、福祉や教育に再投資される好循環を生んでいます。 トラ 主体性を育む教育が、巡り巡って社会にいい影響を与えているんですね。 久本 まさに! 背景を調べてみると、歴史的な経験が大きい。欧州では20世紀の大戦のみならず、数千年の間に戦争が繰り返され、支配や抑圧への不信感が人々に深く刻まれてきました。権力者に何億もの命が奪われ、苦しめられた過去から、「自分で決める」という意識が強い。だから教育でも、社会全体で子供の主体性が尊重されているんですね。 トラ 一方、日本では「学校に行くのがつらい」と感じる子供たちが増えていると聞きます。 久本 全国の小中学校で34万人以上が不登校で、実際、不登校を機に親御さんが教育に関心をもつケースが多いです。ただ、子供たちの教育について学校や先生がすべての責任を負う構造に無理がある。地域や保護者が先生たちをサポートする仕組みが必要だと思います。 トラ その一環で立ち上げられたのが、『オモロー授業発表会』だったのでしょうか? 久本 はい。元々は体験学習の実践を追った『夢みる小学校』というドキュメンタリー映画をヒントに「地域の小中学校にも、必ず夢をもった先生がいるはずだ」との思いで、2023年に関西から始めた活動です。地元の公立の先生たちが登壇し、授業の工夫や成果を10分でプレゼン。子供たちのために日々奮闘する先生方の熱意を、地域の保護者や住民が直接聞いて交流できる場になり、共感してくれた人が人を呼んで全国に広がっています。 トラ 子供たちと市長が宿題廃止を語り合う会も素敵でした! 特に印象深い発表はありますか? 久本 面白い事例は本当にたくさんあるのですが、例えば「30万円選挙」。ある中学校の先生の取り組みで、自治体から学校に助成される予算の使い方を生徒たちに考えてもらい、〝ボードゲーム党〟と〝掃除道具党〟に分かれて真剣に話し合って決める授業を行うことに。最終的には掃除道具が選ばれたのですが、この過程で「現状、困っていること」「どうしたらみんなが快適になるか」などを考え抜いた子供たちは、選挙の価値や責任も学ぶ機会になったようです。 トラ 貴重な体験! 日本では無欲が美徳とされる側面がありますが、「もっとこうだったら便利なのに!」と、いい意味で欲を口に出すことで実現できることがある。その成功体験は社会の変化を生むエネルギーにもなりそうです。それに、楽しい授業だと、もっと知りたいと思えるし記憶に残る。先生がワクワクしながら教えていると、子供たちにも伝わりますよね。 久本 おっしゃるとおりで、子供が自ら学ぶ上でも先生の主体性は不可欠。でも現実には、教員の多くが元気を失って病欠や心の不調が増え、代わりの先生を探すのもひと苦労で。何かと先生の責任が問われ、保護者との関係もうまく築けていないため、疑心暗鬼になってしまっているのではないかと。