日本初のChromebook生産に立ち会ってきた!なぜ、FCCLは本気で参入するのか?
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、自社生産によるChromebookに本格参入する。2025年1月から受注を開始し、2025年2月から出荷を開始する予定だ。販売は富士通ショッピングサイト「WEB MART」だけで行なう。 【画像】FMV Chromebook 11K 特徴の1つが、島根県出雲市の島根富士通で国内生産を行なう点だ。日本でChromebookを生産するのは、すべてのメーカーのChromebookを含めて、今回の製品が初めてとなる。国内開発、国内生産、国内サポート体制を敷き、FCCLならではの堅牢設計を実現。マーケティング展開においても、史上初のMADE IN JAPANのChromebookであることを訴求していくという。 実は、この動きは、4カ月半前に始まっていた。島根富士通では、2024年6月10日と11日に、Googleの立会いのもとChromebookの製造試験を行ない、6月12日には量産を想定した生産を試験的に実施。その後、継続的に改善を加えながら、今後の量産に向けた準備を進めることになる。今回、製造試験の様子も特別に取材することができた。市場には流通しない試作モデルではあるが、いわば、この日が、日本でChromebookが生産された最初の日となった。本稿では、その様子もレポートする。 ■ 過去の経験を生かした生産 FCCLが発表したChromebook「FMV Chromebook 11K」は、2in1のコンバーチブルノートPCで、CPUにMediaTek のKompanio 520を搭載。メインメモリは4GB、eMMCは32GBとなっている。ディスプレイは11.6型で、静電容量方式タッチパネルを採用。本体に収納が可能なアクティブペンも用意している。本体サイズは、286×202×19.9mm。重量は1.19kgであり、軽量のChromebookとなる。価格は5万5,000円と、従来のChromebookであるFMV Chromebook 14Fの価格を下回る。 同社では2021年11月に、国内メーカー初のコンシューマ向けChromebookとなった「FMV Chromebook 14F」を発表した経緯があるが、これは海外ODMで生産したものであった。 だが、今回の「FMV Chromebook 11K」では、企画、開発、製造、保守のすべてをFCCLが日本で行なう。その点でも、これまでの取り組みとは一線を画していることが分かる。いや、むしろFCCLがChromebookに対して、いよいよ本気になって取り組むことを宣言した製品になるといえよう。 そして、同社が長年、取り組んできたWindows PCのモノづくりの実績をもとに、頑丈、高品質のノウハウを、Chromebookのモノづくりに応用している点も特徴だ。 FCCLプロダクトマネジメント本部 本部長代理の小中陽介氏は、「子どもが家庭で利用する初めてのPCとしての利用も想定しており、家庭学習にも利用してもらえる。堅牢設計と使いやすさを両立したPCであり、日本製ならではの安心で高品質な製品を、島根富士通の製造によって実現した。 さらに、FCCLらしく、省スペース化と軽量化にもこだわった。メカや機構、ソフトウェア、セキュリティといった点でもFCCLらしさを実現している」と自信をみせる。 FMV Chromebook 11KはGIGAスクール構想向けのChromebookではないが、その仕様を見ると、堅牢性や使い勝手の面で、学校現場から求められる厳しい要件をクリアするほどの品質を実現しているといえそうだ。 FCCLでは、富士通時代から教育分野での高い実績を持ち、2020年度からのGIGAスクール構想第1期においても、Windows PCで多くの導入実績がある。今回のChromebookでは、そうした実績をもとに蓄積したノウハウを、モノづくりに反映していると思われる部分も多い。Chromebookが教育分野で利用されることが多いだけに、教育分野からの声を反映するモノづくりは当然のことともいえよう。 実は、FCCLでは、2013年に、教育分野に最適化したコンセプトによって投入したタブレットにおいて、破損や故障が多発するという苦い経験をしている。自転車のカゴの中に入れて運んだり、タブレットを何十台も積み重ねて運んだり、床に平然と置かれて踏みつけられてしまうといったように、壊れて当然といった使われ方がされることにまで、対応ができていなかったのだ。 そこで、教育分野での利用を想定した独自の評価基準を設けて、それに合わせた企画、開発を行ない、過酷な試験を実施。さらに品質を高めるための製造技術も確立し、継続的な改善活動を実施。今では、修理率が87.8%も減少したという実績を持つという。こうした経験を、今回のChromebookの開発、生産にも生かしている。 「GIGAスクール構想第1期において、富士通ブランドの教育分野向けWindows PCは、安心して使える端末であるという評価を得た。この経験を新たなChromebookにも展開した」と、FCCLの小中本部長代理は明かす。 FCCLでは、米国防総省が定めた品質基準であるMIL規格をクリアするだけでなく、独自の評価基準を設け、それに基づいた設計をすることで、日本のPCメーカーならではの品質と堅牢性を実現しているという。 ■ FMV Chromebook 11Kのこだわり FMV Chromebook 11Kは、3つの点で特徴を持つという。 1つ目は、「使いやすさの追求」である。 11.6型コンバーチブルでありながらも、従来のWindows PCで提供していた10.1型デタッチャブルモデルと、ほぼ同等のフットプリントを実現。同時に5mm程度の薄型化と、軽量化も達成した。 富士通クライアントコンピューティング マーケティング本部商品企画統括部マネージャーの鈴木聡史氏は、「デタッチャブルでは本体とキーボードの接続部の破損が不安であるという声があったため、今回のChromebookでは、コンバーチブル型を採用した」とする。これも堅牢性を実現する取り組みの1つだ。 画面が180度開くフルフラットヒンジの採用や、テクスチャ素材による持ちやすさや滑りにくさの実現、横長のバー型ゴム足によって持ちやすくしたり、持ち運ぶ際にも滑りにくくしたりといった工夫のほか、どこからも画面が開きやすい断面形状を採用し、使い勝手を追求した。 さらに、Quick Insertキーも搭載した点も、使い勝手の向上に貢献している。Quick Insertキーを搭載したChromebookはまだ少ないが、キーを押すとメニューを表示。ユーザーが必要とする機能を簡単に実行することが可能だ。 書き込んでいる内容の編集や、URLリンクの追加、絵文字やGIFの検索など、その時々なユーザーが必要とするあらゆる機能を簡単に実行できるという。たとえば、文章作成の提案を表示するほか、コンテキストを離れることなく、ドキュメントやチャットにリンクを挿入したり、最近視聴した YouTube 動画やドキュメントを挿入したりといったことがすぐにできる。 また、キーボードの最上部列にはファンクションキーが用意されており、キーボード最下段のFnキーを押しながら、ファンクションキーを利用すれば、文書作成や文字変換などで、最上部列をF1~F12キーとしても使えるようになる。なお、採用しているキーボードは、FCCLのキーボードマイスターが監修したもので、打鍵感にこだわり、快適なタイピングを実現するという。 2つ目は「安心・安全に使える」という点だ。 ここでは、40年以上に渡る国内での内製開発および製造を行なっている実績と、数々の評価試験を行なっていることを強調する。 3つ目が、開発から製造までの一貫体制による「MADE IN JAPAN」である。 これにより、高品質、高性能とともに、確実なデリバリや柔軟に対応といった特徴が発揮できるという。 「部品の受け入れから、一貫生産することで、トータルできめ細かな生産管理を行なうことができるほか、開発、生産拠点が国内にあるため、お客様の意見を製品に迅速に取り入れやすく、使いやすさの向上など、より良い製品づくりに反映できる。また、国内生産により、短納期で、要望通りの納期に届けることができ、ニーズにも柔軟に応えることができる。国内で開発、生産を行なっているからこそ、お客様のさまざまな要望に対して、誠実に、柔軟に応えることができる」(FCCLの鈴木マネージャー)と述べた。 ■ WindowsとChromebook、設計から出荷までのプロセスが全然違う Windows PCとChromebookでは、製品の設計、開発、生産、出荷に至るまでの仕組みが大きく異なる。 Windows PCの場合には、搭載するCPUや使用する各種部品、仕様などは、PCメーカー側が自由に行ない、それをもとに生産を行なう。だが、Chromebookでは、製品企画、設計、設計検証、妥当性検証といったそれぞれのフェーズでGoogleの承認を得て、次のフェーズに進むというプロセスを踏むことになる。 これは、FCCLおよび島根富士通が、初めてChromebookを開発、生産することが理由で行なわれるものではなく、すべてのODMベンダーが、新たなChromebookを生産するたびに、毎回行なわれているものだ。 富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部 PM統括部マネージャーの山田裕道氏は、「CPUやメモリ、ストレージ、液晶パネル、各種コネクタといった主要部品の選定のほか、オーディオジャックなどの細かな部品、基板レイアウトや筐体デザイン、梱包箱など、約200項目のすべてを、部品メーカーなどの協力を得ながら、クリアする必要がある。 また、品質や操作性などについても、Googleの基準において評価を行ない、承認を取らなくては先に進めない。生産も同様であり、実際にGoogleの社員が立ち会い、生産ラインを確認し、製造品質を評価することになる」と、Chromebookの開発、生産に至るまでのプロセスを説明する。 Windowsは、より多くのメーカーが参加し、さまざまなCPUやGPU、メモリ、ストレージ、ソフトウェアを利用できるようにするが、Chromebookは、ハードウェアとソフトウェアを一体化し、Googleが設定した環境の中で動作する仕組みを構築している。この差が、開発、生産における違いにつながっている。 島根富士通の神門明社長は、「これまでのWindows PCとは生産手法やルールが大きく異なる。そこに、島根富士通のモノづくりの強みをどう合わせ込むかが課題だった。島根富士通のモノづくりによって、高い品質のChromebookを日本の市場に届けたい」と意気込む。 2024年6月10日に、Googleの立会いのもとで、Chromebookの製造試験を行なったのも、こうしたプロセスに則ったものであり、それまでのフェーズにおいて、Googleの承認を得たことによって辿り着いた重要なマイルストーンというわけだ。これは、PC生産専門工場として、30年以上の歴史を持つ島根富士通にとっても初めての経験だった。 島根富士通では、6月10日と11日の2日間で、約150台のChromebookを生産。これを「プレRUN」と位置づけ、6月12日には、量産を前提とした「量産試験RUN」として生産ラインを稼働させ、約50台のChromebookを生産し、検証を行なった。なお、ここで生産されたChromebookは、あくまでも製造試験のためのものであり、市場に流通することはない。 では、日本のPC工場で、初めてChromebookが生産された様子を写真で紹介しよう。 ■ 堅牢面の徹底的な工夫 今回のChromebookの製品化においては、とにかく堅牢性にこだわった。 1つはタッチパネルの割れ防止である。 表面ガラスを25%厚くしたほか、外周4辺のカバーに幅を持たせて、表面ガラスに衝撃が伝わりにくくするとともに、ガラスよりも外周のカバー部を高くし、ガラスへの直接的な衝撃や傷つきを低減。さらに、液晶パネルの左右にL字の板金を通すことで、液晶パネル側の剛性確保と、先端コーナー部の補強を行なう構造とした。通常モデルではデザインの観点からも薄型化を追求するが、堅牢性を重視している姿勢が分かる。 富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部共通開発センター機構技術部チーフマネージャーの青木伸次氏は、「コンバーチブルとして使用するため、ガラス面が下向きに置かれることも想定した。ガラス面を下においた際に、砂粒などの突起物の上に乗せても、傷がつきにくいようにした。 また、コーナー部を1mmの板金でガードしている。ここまでの厚みは他社にはない」とし、「外周のカバー部を高くすると厚みが出てしまうが、堅牢性を優先した。そこにFCCLならではの薄型化技術を加えていった」と語る。 さらに、コーナーグリップ部のゴムの形状を変更し、耐力を2倍に向上。無理やりグリップを引っ張って、変形してしまい、ゴムが取れてしまうといったことが無いようにしたほか、底面のゴム足を外れにくくするように、横長に面積を拡大し、熱溶着で固定。キーボード面のゴム足は内側から取り付けることで、故意に取ることができない構造を用いた。 また、キーボードでは、キー周囲の枠を高くし、ノートや爪などがキーの下に入って引っかかり、キートップが外れてしまうことを防止。仮にキートップが外れても、簡単に戻すことができる構造を採用した。加えて、バッテリの外側カバーはネジが外れない構造も採用している。 もちろん、FCCLは世界最軽量のノートPCで実績を持つPCメーカーだけに、堅牢性を実現しながらも、軽量化や薄さは犠牲にしていない。1.19kgという軽量化を実現したことからもそれが分かる。 「PCを利用する発生していた課題や、顕在化していない課題、開発チームの意思で改善したいといった内容を、数百項目のリストとしてまとめ、1つずつ改善していった」(FCCLの青木氏)という。 なお、これらの工夫の成果は、Windows PCのモノづくりにも反映されることになる。 ■ 評価試験も増加 FMV Chromebook 11K の開発において、FCCLではいくつもの評価試験を実施している。 たとえば、自動車で持ち運ぶことを想定した振動試験に加えて、自転車での持ち運びを想定し、より過酷な振動試験を実施。自転車で荒れたアルファルトやレンガ敷の道路を長時間にわたって走るシーン、段差を超えたり、側溝に落ちたりした場合も再現した振動試験を行なっている。 また、机の上から落としてしまうことを想定し、76cmの高さから落下させた試験のほか、122cmの高さからも落下。さらに、地面や机の上に、投げるように乱暴に置かれることを想定して、10cmの高さから6面を各1200回ずつ繰り返して、鉄板に落下させる試験も行なっている。この試験では、蓄積したダメージによって起こる不具合も発見できるという。また、画面への肘置きや、カバン内に入れたPC本体がアダプタなどに押されるといったシーンを想定して、画面側、天板側の全面に対して、それぞれ約90カ所を、35.7kgfの力で、一点加圧する試験も実施している。 製造試験によって初めて組み立てられたChromebookも、すぐに島根富士通内の評価試験室に持ち込まれて、評価が開始された。こうした場の取材では、まずは実際に評価してから公開することが一般的だが、一度も評価をしたことがない製造試験後のChromebookの評価試験の様子を公開してくれた。それだけ、堅牢性と品質には自信があるのだろう。実際、一点加圧試験を行なったChromebookは、液晶パネルが割れることもなく、電源を入れると正常に起動した。 FCCLの鈴木マネージャーは、「FCCLが、徹底して堅牢性にこだわったChromebookを投入することで、使用時の故障を減らすことができる。修理が減るということは、修理に伴う損益悪化といった課題の解決にもつながる」と語る。 国内開発および国内生産によって実現する高い品質が故障率の削減に大きく貢献することは間違いなさそうだ。 そして、島根富士通によって、国内で初めて生産されるChromebookは、需要の変化にあわせて、ライン数を拡大できるなど、生産量に対する柔軟な対応が可能である。これも国内生産ならではの強みになる。 FCCLのChromebookのモノづくりを見ると、かなりの本気ぶりであることが伝わってくる。今後、FCCLは、Chromebook分野において、どんな成長戦略を描くのかが注目される。
PC Watch,大河原 克行