プーチン大統領の使者東京へ 新ロシア大使に初の単独インタビュー 緊迫の80分
■ブチャ虐殺について
その後、ロシア軍の巡航ミサイル「Kh101」に間違いないとする調査機関や専門家の分析が明らかになりましたが、この時点では十分な情報がなく、議論が堂々巡りとなるため、私たちは話を変えました。2022年の侵攻当初の現地取材で確実に裏付けが取れている、キーウ近郊のブチャで民間人が多数殺害された事実をただしました。 ──私たちがブチャのウクライナ人を取材したところ、通りを歩いていたらロシア兵に撃たれたという証言を得ました。衛星写真でも証明されています。 ノズドリェフ大使 「私は、まさに逆だと思っています。もし、このような事件があったとしたら、具体的な犠牲者の名前、リストをきちんと渡していただければどうかと何回も主張したが、一度も具体的な名前を出していない。ということは、具体的な証拠がないのだと思います。現地の人は、おそらく何かを恐れている」 議論はかみ合いませんでしたが、人権問題には特にこだわって聞かねばなりません。
■ウォール・ストリート・ジャーナル記者収監について
スパイの罪で収監されているアメリカの新聞社、ウォール・ストリート・ジャーナル記者の解放についても、国連人権理事会が恣意(しい)的な拘束と認定して抗議していることをただしましたが、「まったく根拠がない。実際の行動や情報によって明らかにスパイ行為だ」と、とりつく島もありませんでした。 当日は、大使館スタッフが取材を見守りましたが、通訳は立ち合いませんでした。ノズドリェフ大使は私たちの日本語の質問を全て理解し、従来のロシア政府の公式見解に沿って日本語で能弁に語りました。 人権問題の追及にも冷静だったノズドリェフ大使が、私たちの質問に対し、やや前のめりになる場面が2回ありました。
■反欧米の新たな多極的世界?
1つ目は、欧米中心の国際秩序に対抗するロシアの思惑について聞いたときです。 ──アメリカを中心とした西側社会は民主主義、法の支配といった価値観に結ばれています。ロシアの動きは、そうした欧米中心の国際秩序に対抗し、新しい秩序をつくる動きにも見えますが、いかがでしょうか? ノズドリェフ大使 「どこかの国が勝手に決めたかのような発言と受け止めているんですけど、そもそも今の国際社会の流れを見ますと、2つの大きな傾向があると思います。西側諸国が国際貿易の面で、いろいろ障壁をつくっていることに対し、グローバルサウス諸国からは不満の声が出ています。それは自由貿易という原則の基本的な違反だと私は思う」 アメリカに支配されない、多極的な世界を描いているようです。 「G7を中心とした世界経済、あるいは安全保障、こうしたものに対する…」と私が質問しようとすると、「今、変わりつつあります」と語調を強めて返してきました。 グローバルサウスと呼ばれる国々との共通の利害を強調する大使の言葉には「ロシアは孤立していない」という主張が、にじんでいました。