【#佐藤優のシン世界地図探索㊻】シン東京地図図鑑<2>「勝ち組女子の幸せと哀しみ」
佐藤 あの婚活夫婦は共働きです。世帯収入が1600~1700万円ですから、豊洲のタワマンの上層階だと1億3000万円はするので、買えません。しかし、中層階ならば買えます。だから、「中産階級の缶詰」という台詞がありましたよね。 ――言ってました。さて。この女主人公は勝ち組なんですか? 佐藤 ものすごい勝ち組ですよ。 ――秋田から三軒茶屋、恵比寿、銀座。そして、アパレルからグッチに行って、婚活結婚して豊洲。で、代々木上原でひとり暮らしして離婚し、再婚。 佐藤 最初の商社マンたちの中にいた「僕はゲイじゃないけど、女の子からよく相談されるんだよ」と言っていたアパレル時代の同僚と再婚しました。それで、最後に「これで孤独死から逃れた」と言っていましたが、十二分に幸せですよ。 ――あの主人公の幸せって、何ですか? 佐藤 競争の中でその競争に負けないということです。だから、ああいう風になるんですよ。一度、秋田に帰ったシーンで、元々、東京・御徒町の八百屋の娘だった母親から「あんた、ちょっと東京に行ってすごい嫌な女になったね」と言われますが、そうなるんですよ。 ――東京からしか幸福感を与えられない女性なんですね。そもそも雑誌『東京カレンダー』の読者はどんな方々なのですか? 佐藤 難関大学を出て、商社やベンチャーに就職して、年収650万円から1000万円を少し越える人たちが読んでいるのだと思います。 ――『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』に「遺伝子ロンダリング」という言葉がありましたが、そんなことをしないと普通の人はその読者になれませんね。 佐藤 著者・麻布競馬場のペンネームの由来は、「皆、競争の中で、競馬のように、コーナーでせめぎ合って走らされているだけの人々」だそうです。 ――幸せなんでしょうか......。 佐藤 幸せですよ。 ――はい......。次回はその小説『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』をテーマにお願いします。 佐藤 最近読んだ中で、最も面白い小説ですね。 ――はい、確かに。 次回へ続く。次回の配信は2024年3月1日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生