【#佐藤優のシン世界地図探索㊻】シン東京地図図鑑<2>「勝ち組女子の幸せと哀しみ」
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT OpenSourceINTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * 世界が劇的に動き続けるなか、いまの日本とその首都・東京をとらえるための素晴らしい教科書がある。 ひとつめが雑誌「東京カレンダー」の公式サイトにて連載されていた『東京男子図鑑』と『東京女子図鑑』。いずれも連続ドラマ化され、今ではネットでも視聴可能である。 そしてもうひとつは2022年に発売され、今もベストセラーとなっている小説『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(著:麻布競馬場 集英社刊)だ。 シン世界を探索すべく、足元の"シン東京"を読み解くこの短期集中連載。初回に続いて第2回目のテーマは『東京女子図鑑』。ストーリーのネタバレにはご注意いただきつつ、この教科書を読みこんで2024年のシン東京を紐解いてみよう。 ――『東京女子図鑑』では、東京に憧れる秋田県出身の女性が国立秋田大学を卒業し、都内のアパレルメーカーに就職して上京。三軒茶屋に住み人生ゲームが始まります。 まず、引っ越したばかりで近所を散歩中に道に迷っていたところ、親切に案内してくれた男に出会います。彼は秋田出身でふたりは恋に落ち、お互いのアパートの部屋を行き合う仲に。この秋田男と結婚していれば、自分のサイズに合った幸せを手に入れて、秋田に帰れましたかね? 佐藤 秋田に帰らず、三軒茶屋のこじんまりしたマンションか、一戸建てでそれなりに幸せに暮らしていたでしょうね。最終回の手前でこの秋田男と再会して、よりを戻すのかと思ったらすでに、秋田男は結婚して子供がいましたね。 ――その秋田男のほうが、賢く、自分の幸せのサイズ感を知っていたわけですね。 佐藤 そうですね。 ――そしてこの主人公は、午後8時の恵比寿駅前待ち合わせの合コンで、一流商社マン達と出会う。そのうちのひとり、港区生まれ港区育ちの男と結婚しそうになりますが、その商社マンがNY支店に栄転になる前に、フラれる。商社マンはさっさと東京都港区出身の本物のお嬢様と結婚してしまう。 佐藤 『東京女子図鑑』は、2019年のドラマ『東京男子図鑑』の放送より3年前のオンエアでしたね。逃げた男がNY支店に行くのは、世相の変化が出ています。第一線が3年違いで、NYからシンガポールになっていますから。改めて良く取材していると思いました。 ――その商社マンと結婚した女性は離婚して東京に戻り、主人公の女性と偶然バーで出会います。花屋を経営してるんですよね。 佐藤 そうですね。 ――そこで焼き立てのパンを食べながら、主人公の女性は「自分はこのクラスに入ったんだ」と思って満足している。 佐藤 ところが、花屋でバイトをしている女の子が、そのNY帰りのバツイチ女性のことをこう言いますね。「ちょっと調べればどういうお家か分かるのに、お嬢様になれると思っちゃって。蛙の子はお姫様になれないんだから、いつまでも田んぼの中でゲコゲコ鳴いてればいいのに」と。 ――蛙の子は蛙。あの台詞には心臓が止まりかけました。 佐藤 でも、本当ですから。それから主人公はこうも言っていましたよね。「この青天井の東京で同世代の女たちが自分の欲望っていうのを実現しているのを見ると、溜息が出ちゃう」と。 ――あのドラマにも登場し、現実にもいらっしゃるいわゆる港区の方々は、平安時代にいた公家貴族の現代版と思えばいいのでしょうか?