「G7サミット」で“崖っぷち”の岸田首相は日本国代表として何を語ったのか? 2日間のセッション内容を振り返る
【6月14日】セッション4「移住」
議長役のメローニ首相は、1)移民発生国での根本原因への対処、2)移民の密入国に関わる国際組織犯罪への対応、3)移住に関する正規ルートの整備、という3つの指標を示した。 これに対し岸田首相は、「日本は人間の安全保障基金を通じ、モルドバ、ソマリア、レバノン等において、難民、国内避難民・帰還民、ホストコミュニティの住民の保護とエンパワーメントを支援してきた」などと述べた。 岸田首相の発言を聞いていると、まるで「対岸の火事」のようだ。だが移民問題は、決してヨーロッパだけの問題ではない。少子高齢化や円安などで空前の人手不足が続く日本でも、移民の受け入れを議論すべき時期に来ているからだ。 現在、日本の各地方自治体が行っている人口増を目指す諸政策は、言ってみれば「移住者の奪い合い」である。市町村Aから市町村Bに人が移住すれば、Bは喜ぶがAは困るのだ。かつ日本の総人口は着実に減り、高齢化しているので、日本全体としては先細りだ。 これを解決するには、将来的に精巧な人間型ロボットが補助役を担ってくれるまでは、外国から就業者を受け入れるしかない。まさに14日、外国人の「育成就労」の創設を柱とする改正関連法が、国会で可決、成立したのは、こうした問題が待ったなしになっているからだ。 アメリカでは移民問題が、大統領選の帰趨を決めるほどの一大争点となっている。日本もいまのような弥縫策でなく、日本の将来を決定づける国民的課題として捉えていくべきだ。
セッション5(ワーキングランチ)「インド太平洋、経済安全保障」
このセッションの主役は、東アジア地域からの唯一の参加者である岸田首相だった。岸田首相は述べた。 「インド太平洋及び経済安全保障は、G7が国際社会をリードし続ける上で戦略的に重要である。インド太平洋地域と欧州の安全保障は不可分一体であり、引き続きG7間で連携を深めたい。中国をめぐる諸課題への対応や、核・ミサイル問題、拉致問題を含む北朝鮮への対応において、引き続き緊密に連携していきたい。 経済安全保障については、(中国の)過剰生産や非市場的政策及び慣行に関する課題、(中国の)経済的威圧への対処、サプライチェーンの強靭化、重要・新興技術の保全等について、今後も連携して取り組んでいくべきだ」 岸田首相は昨年、バイデン大統領やNATOのイェンス・ストラテンベルグ事務総長らと組んで、NATOの東京事務所を開設しようと目論んだ。今回述べたように、「インド太平洋地域と欧州の安全保障は不可分一体」であることを示そうとしたのだ。もっと端的に言えば、「今日のウクライナが明日の台湾」にならないようにということだ。 当然ながら、中国はこの構想に猛反発した。「現在のアジアは平穏無事だが、NATOがやって来ればヨーロッパ同様の衝突が起こる」というのが、中国の主張だ。 この時、中国の主張に全面的に賛意を示し、NATO東京事務所開設に強硬に反対したのが、G7のメンバーであるフランスのエマニュエル・マクロン大統領だった。マクロン大統領によって、この計画は粉砕されたのだ。そうした中、丸テーブルで7人(+ウルズラ・フォンデアライエンEU委員長)が中国の脅威について議論しても、何だかキリスト教の「最後の晩餐」の絵図のようだ。 全体で36ページに上る首脳声明では、11ページから12ページに、中国に関する言及が出てくる。その一部を紹介する。 〈 私たちは、中国の執拗な産業の狙いと、包括的な非市場的政策、その実践に懸念を表明する。それらはますます幅広い分野で、グローバルな波及、市場の歪み、有害な過剰生産を誘導することになる。私たちの労働者、産業、経済の回復力と安全保障を損なうことになる。(中略)私たちはさらに中国に、特に重要な世界のサプライチェーンを混乱させるような特定の鉱物に関して、輸出の管理措置を取るのを控えるよう求める(以下略)〉 中国の生産過剰問題については、先週のこのコラムで詳述した通りだ。中国に対しては他にも、サイバー攻撃、台湾海峡、東シナ海、南シナ海での軍拡、ロシアへの支援、チベットや新疆ウイグルの人権問題などについて、G7として注文をつけた。だが中国はいずれも馬耳東風なので、実際的効果があるかは疑問だ。