センバツ2022 和歌山東、聖地初勝利 響く校歌、スタンド歓喜 /和歌山
聖地で新たな歴史を刻んだ――。センバツ初出場の和歌山東は、開幕日の19日、1回戦で倉敷工(岡山)を8―2で降した。雨の降る中、緊迫した接戦となったが、延長十一回を戦い抜いて初勝利をつかんだ。チームの目標、ベスト8進出をかけた2回戦は、大会第6日(24日)の第2試合(午前11時半開始予定)で、浦和学院(埼玉)と対戦する。【橋本陵汰、加藤敦久、中田博維、根本佳奈】 校歌が聴けるとは思っていなかった――。勝利の瞬間、野球部を支え続けた西山義美・特別後援会会長(65)は涙ぐんでいた。「攻めて攻めて攻めたぎる野球」を掲げる倉敷工の強力打線を、和歌山東は無失策の守備、完璧な継投で抑え込んだ。 和歌山東の甲子園初安打は森岡颯太選手(3年)だった。初回、遊撃への内野安打で無死一、三塁の好機を演出。ここは惜しくも無得点に終わり、その後、先制を許した。しかし、1点を追う六回、併殺の間に山田健吾選手(3年)が本塁を踏んでチーム初得点を記録した。「遅いイニングになったが、うれしかった」と振り返った。 同点になって以降は我慢のとき。打たせて取る持ち味を十二分に発揮していた先発の麻田一誠投手(3年)だが、八回に2四球で1死一、二塁のピンチを招いた。ここから、昨秋の県大会でも見せた米原寿秀監督の小刻みな継投がピタリとはまった。まずは田村拓翔投手(3年)だ。「自分も抑えてやろうと思った」と、この回をしのぐ。九回は再び麻田投手が抑えると、延長十回1死一、二塁のピンチでは山田選手が登板し、切り抜けた。左右の投手を使い分ける見事なリレーで流れを渡さなかった。 そして、延長十一回。先頭の瀬村奏威捕手(3年)が中前打で出塁した。父昭博さん(44)、母知都さん(44)は「チームの気持ちを込めた魂の一打だった」と感無量の様子。ここから打線がつながり、「気持ちだけは負けずにいこうと思っていた」と森岡選手が勝ち越しの右前適時打を放った。此上平羅主将(3年)、橋本晃成選手(3年)らも続いた。この回だけで7安打。持ち味の足でも相手をかき乱し、勝利を決定づけた。 投打に活躍した山田選手の父秀行さん(42)は、「甲子園は夢の舞台。私の夢もかなえてくれた」。麻田投手が最後を締め、登板のたび両手を合わせて祈るように見ていた母梨恵さん(37)は「『大丈夫やで』と気持ちを込めて見ていた。ほっとしている」と喜んだ。 途中出場の選手も全員が結果を出し、相手のお株を奪って攻めたぎった延長戦。アルプスはグラウンドと一体となり歓喜に沸いた。 ◇チャンス運んだ「青」の魔曲 和歌山商が“友情応援” 一回表無死一、三塁の好機。チャンステーマ「青のプライド」が和歌山東のアルプススタンドから響き渡った。実は奈良大付(奈良)が使用しているオリジナルの応援曲だ。甲子園で披露するべく、準備をしていた。 迫力ある重低音の入りから、徐々にテンポアップしていく特徴がある。作曲したのはプロ野球・ロッテの応援団長を務めたこともある作曲家、ジントシオさん(41)。奈良大付の関係者から、演奏すると点が入るとされる「魔曲」をイメージしてつくってほしいとの依頼を受けたという。2018年に完成し、初披露された同年夏の甲子園では「かっこいい」「また響かせてほしい」などとSNSでも反響があった。 その際、球場で生演奏を聴いた和歌山東の南佳詞部長も感動した一人だ。チームカラーの「青」がタイトルにも入っていることから、「うちも甲子園で使用したい」とジントシオさんや奈良大付に願い出て、許可を得た。 初回は不発だったが、延長十一回の攻撃では先頭打者から全打者に「青のプライド」が使用されて一挙7点を奪い、まさに「魔曲」となった。此上主将は「すごく奮い立った」と振り返る。観戦したジントシオさんは「使ってもらい、作曲者としてうれしい。あの攻撃が勝利につながった」と喜んでいた。 「魔曲」を奏でたのは和歌山商の吹奏楽部員や卒業生ら約20人だ。永浜颯太部長は「野球応援は初めて。それも甲子園で吹けるのはうれしい」と話した。思いのこもった“友情応援”に応えた選手たち。次戦も「青のプライド」が球場をのみ込む。【橋本陵汰】 ◇夢舞台で堂々と行進 開会式 市和歌山は大型ビジョンで ○…開幕日に初戦を迎えた和歌山東は、甲子園での開会式に臨んだ。観客が見守る中、今センバツの入場行進曲「群青」に合わせてナインらが行進した。春夏通じて初めてとなる聖地。選手たちはその土の感触を確かめながら、歩みを刻んだ。 開会式に参加したのは、この日試合のあった6校のみ。大会第5日(23日)に初戦を迎える予定の市和歌山は、事前に和歌山市内の同校グラウンドで撮影した選手たちの行進の様子が、バックスクリーンの大型ビジョンに映し出された。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇打たせて取る エースの自負 麻田一誠投手(3年) 「マウンドからホームベースまで、とても近く感じた。投げやすかった」。初めて臨んだ聖地は、制球力抜群のエースにほほえむ球場だった。大舞台でも最高の投球を見せた。 立ち上がり、簡単に3者凡退に切って取った。三回こそ死球から1点を失ったが、そこはエースらしく立ち直る。四、六回は8球、七回はわずか4球で打者3人を打ち取る安定ぶり。「打たせて取る自分の投球ができた」 ただ終盤、八回は1死一、二塁のピンチを招いてマウンドを降り、再び戻るも、十回のピンチでまたマウンドを譲った。「最後まで(一人で)投げられなかったのが悔しかった」と反省を口にする。 昨秋の県大会、近畿大会では計9試合に登板して4完投しただけに「自分が最後まで」という気持ちが強い。この日も最後はマウンドに戻った。被安打わずか4ながら、それでも満足はしない。エースの自負を持ち、次の登板に備える。【橋本陵汰、中田博維】