家計負債の割合が高く、政府負債の割合は低い韓国…その裏には「自己責任社会」
[専門家リポート]リュ・ドクヒョンの健全財政神話を脱する
9月中旬の米連邦準備制度理事会による金利引き下げ決定を受け、来月に予定されている韓国銀行金融通貨委員会の決定に関心が集まっている。内需低迷が深刻化していっている今日、内需回復のためには金利引き下げが必要だが、金利を引き下げると住宅ローンを中心に家計負債が大幅に増えることが懸念されるため、韓銀は頭が痛いことだろう。 韓国の家計負債問題は、通貨政策の運用の幅を狭める主な制約条件だ。本稿では、韓国の家計負債の問題を政府の財政政策と関連づけて、新たな視点で検討する。国内総生産(GDP)の100%を超える家計負債は、もはやある程度大きな出来事が起きなければニュースにもならないほど慢性化してしまった。 ■マクロレバレッジ比率は先進国平均と大差ないものの 家計負債、企業負債、政府負債(一般政府ベース)を合わせたものをマクロレバレッジという。韓国の場合、GDPに対する総負債の比であるマクロレバレッジの割合は2021年で320%(家計108%、企業168%、政府51.6%)。経済協力開発機構(OECD)加盟国平均(328%)と同水準だ。しかし、その構成は明確に異なる。企業負債は147%でそれほど大差ないが、OECD平均は政府負債102%、家計負債69%という構成になっている。これについて韓国外国語大学のソン・ジョンチル教授(経済学)は、昨年発表した論文で、米国と欧州は家計負債が2010年以降に着実にデレバレッジングされるに伴って政府負債の割合が高まった一方、韓国の家計負債にはこのような過程はなく、増加し続けたためだと報告している。 韓国、オーストラリア、スイス、カナダは「低い政府負債比率、高い家計負債比率」という共通点がある。しかし、このような負債構造が形成されてきた過程とその内容はまったく異なる。このグループにおいて「高い家計負債比率」が形成されてきた原因は、次のようなものだ。不動産資産価格の継続的な上昇、低金利、マイホームに対する熱望、長期の住宅ローン制度、消費者貸付の継続的な増加、家計負債の拡大より鈍い経済成長などだ。「低い政府負債比率」を形成した共通の要因としては、しっかりした財政規律と健全財政(または均衡財政)という政策基調、安定した経済成長、豊富な天然資源(カナダ、オーストラリア)、強力な財政当局の存在、効率的な租税体系などがあげられる。 しかし、共通点に劣らず相違点も存在する。韓国が注目すべき点は、このグループに属する国々と韓国の違いだと私は考える。まず家計負債から見てみよう。金融投資協会(2022)によると、韓国の家計資産に非金融資産が占める割合は64.4%で、米国(28.5%)、日本(37%)、英国(46.2%)、オーストラリア(61.2%)などを圧倒する。すなわち韓国の場合、先に説明した共通の要因に加えて、不動産などの非金融資産が家計資産の構成において高い比重を占めていることも、「高い家計負債比率」の原因となっている。 かつて、不動産市場が不安定になる度に、歴代政権は需要抑制政策と供給拡大政策を交互に駆使したものの、市場を安定化させることもできず、むしろ不動産価格がいっそう上がったり、家計負債が大きく増加したりという結果を頻繁に招いた。総負債元利金返済比率(DSR:可処分所得に対する元利金の比率)規制、LTV規制、住宅許可取引地区の指定などの需要抑制を強く推し進めた進歩政権の時代は、抑制された住宅需要が風船効果を伴う価格高騰を招いたうえ、実需と投機需要を刺激して住宅ローンが大きく膨らむ傾向があった。住宅供給の拡大の方を重視した保守政権の時代には、住宅供給の拡大(さらには「借金して家を買え」と経済首長はあおった!)による市場安定化政策が、結局は分譲/請約/特別供給などのかたちで住宅ローンを増やし、家計負債を膨らませた。最近になっても新婚夫婦特例、青年住宅ローン、老朽住宅建て替え規制の緩和(新都市/旧都市)などの様々なかたちの住宅供給制度と、最長50年の住宅ローンの新規導入などを通じた住宅供給拡大政策は、住宅の実所有者に対する住宅供給はある程度満たせたとしても、本質的に家計負債の増加は避けられないだろう。 また、韓国の独特な住宅賃貸借制度である伝貰(チョンセ:契約時に賃貸人に高額の保証金を預けることで、月々の家賃を払わなくて済む不動産賃貸方式)制度も、高額の賃貸保証金を抱え込まなければならないという点で、家計負債比率の上昇を招いた。また看過できないことの一つが、韓国の家計負債の中には自営業者の負債が19.1%含まれており、家計負債の高さという問題がまさに「店」の負債の問題を含んでいるということであり、これも他の国々との違いだ。 ■政府負債比率の低さも家計負債比率の高さの一因 政府の財政政策の方向性も、負債構造の特徴を形作るのに一役買っている。このグループに属するオーストラリア、スイス、カナダも、住宅ローンの割合が家計負債比率を高めているのも事実だ。だが韓国は、不動産だけでなく、小商工人自営業者貸付、教育費、医療費などの用途で家計が負債を抱え込むケースが多い。これは、韓国がかつての発展途上国から先進国へと発展する過程での財源配分の結果、政府財政は負債比率が低く、民間部門は高い水準に達したものだ。韓国の公共賃貸住宅の割合は2020年現在で9.2%と、OECD加盟国の中で下から9番目で、国公立病院の割合は6.2%、国公立学校の割合は55.2%と、OECD加盟国で最低水準であることがそれを示している。政府負債比率の低さは、国民一人ひとりの「自己責任の暮らし」と深い相関関係にある。 韓国は急速に高齢化している。これは政府財政にとってさらなる圧力となり、年金、医療、社会福祉に対する支出が大幅に増加するだろう。人口が少なく海外からの移民が多いため人口変動から受ける圧力を相殺しうるオーストラリア、カナダなどとは非常に対照的だ。スイスも人口の高齢化の進行が比較的速いが、高齢者のための年金システムが最もよく発達しているため、政府財政にのしかかる負担は韓国よりはるかに軽い。オーストラリアも同様で、年金制度が発達している。いっぽう韓国は、セーフティーネットと年金制度が比較的ぜい弱なため、家計が仕事からの引退、教育、医療などで個人貯蓄と負債に大きく依存しなければならず、今後も家計負債は増加する可能性が高い。 先に見たグループに属する国々も、不動産資産保有にともなう家計負債比率の増大は仕方がない面があるが、それ以外の部門では政府が財政で解決している傾向が強い。したがって、政府財政がなすべきことは明確だ。 まず、不動産市場の安定化政策の視点と内容を、前向きに住居サービス(housing service)安定化政策へと大転換すべきだ。住宅供給を増やすにしても、分譲/貸付を通じて持ち家率を画一的に高めるものから、安定的な住居サービスを拡大する方向へと転換しなければならない。政府負債比率の低い国々の共通点は、すでに社会福祉と年金制度が充実しているため、政府の大幅な財政支出を通じた社会福祉サービス拡充の必要性が相対的に低いということだ。また租税負担率が低くないため、大幅な政府負債の増加がなくても、必要な財政を確保できる。 韓国は異なる。セーフティーネットの不十分さや、年金制度の保障水準の低さのせいで、今も政府が財政で手厚く支援すべき部分は多い。だが、この20年あまりの間、19~21%にとどまっている租税負担率では、それを満たすのは困難だろう。だとすれば、政府負債比率の上昇は避けられないだろう。家計負債もすでに高水準なのに、政府負債まで大幅に増加すれば、韓国経済はそれに耐えられなくなるだろう。そうなる前に政府は財政政策を前向きに転換することが必要だ。それが増税を伴うものであれ、財源配分の大幅な改善であれ、何であれだ。無為に歳月を費やしていることが非常に悔やまれる。 リュ・ドクヒョン|中央大学教授(経済学) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )