4回転のない高橋大輔が全日本2位となった“お手本”という名の復帰意義
フィギュアの全日本選手権の男子シングル、フリーが24日、大阪・門真市の東和薬品ラクタブドームで行われ、右足首を痛め出場が懸念されていた宇野昌磨(21、トヨタ自動車)が優勝、3連覇を果たし、今季競技復帰した高橋大輔(32、関大KFSC)が2位に食い込み6大会ぶりの表彰台に上がった。高橋は、世界選手権への出場は辞退したが、現役続行の意向を明かした。高橋の復帰は日本のフィギュア界に大きな刺激とインパクトを与えた。4回転がなくてもここまでやれる……というレジェンドの挑戦は若手への“お手本”として意義があった。
4回転挑戦もミス
約束のリンクに帰ってきた。1年前のこの全日本選手権をテレビの仕事で取材した高橋は、平昌五輪代表の座を真剣に狙う後輩たちの姿を見て「もう一度、自分自身も味わいたい」と、復帰を決意。この全日本の最終グループに入り、金メダリストの羽生結弦、銀メダリストの宇野と「一緒に6分間練習や公式練習をしたい」ということを目標に立てた。羽生の怪我による欠場で3人の競演は実現しなかったが、SPで2位発進し、宇野との勝負は実現した。 演技冒頭では4回転に挑む。6分間練習では成功。「凄く迷ったけれど」その勢いにかけたが、3回転トゥループになってしまう。 「一番中途半端な形になった」 続くトリプルアクセル+ダブルトゥループは綺麗に着氷した。滞空時間のある美しいアクセルジャンプだった。しかし、次のトリプルフリップでは片手をつく。4回転のミスの影響と、やはり、32歳の年齢に加え、4年のブランク、復帰初年度の練習量の問題もあって演技後半ではスタミナが切れた。 トリプルルッツ+シングルオイラー+トリプルサルコウの3連続ジャンプでは最後で足がもつれるように転倒した。続く、トリプルループもダブルループになってしまい、最後のトリプルフリップではバランスを崩した。しかも、計算違いのリピート……。フィニッシュポーズも、すこしよろめいて決まらなかった。苦笑いが最初の演技後のリアクションだった。それでも151.10点をマークして合計得点239.62点が2位にランクされると、笑顔で「うそでしょ、まじ? やべえ」と思わずつぶやいた。 フリーの得点は全体で4位だったが、SPの貯金があって5年ぶりの出場の舞台で2位となった。 「自分の演技が終わった時に表彰台はないと思っていたので、まさかの2位。正直、驚いています。でも、すごく充実した時間を過ごせた。緊張感の高い中でスケートをする喜びがありました。今後? とりあえず全日本が目標だったのでまったく考えていません。(ただ)人前で滑り続けたい気持ちが強くなっています」 戸惑いと満足。そして現役続行の意向を示した。 来年3月の世界選手権の選考会を兼ねる今大会では上位3選手が代表権を得る可能性があったが、高橋は辞退した。 「行きたい気持ちが、やまやまな部分もありますが、世界と戦う覚悟が持ちきれなかった。その覚悟を持たずに出るべきではない。32歳でこの先、希望があるかというと、正直ない。若い選手が、日本を引っ張っていくプレッシャーのかかる大きな大会で経験を積む必要性の方が大きいと感じた」 この全日本までを区切りに心身ともに準備を積んできたことと、先のない自分が若手のチャンスの芽を摘んではならないとの配慮が、その理由だという。 しかし、高橋の復帰が日本のフィギュア界に与えたインパクトは大きかった。 優勝した宇野は、高橋について聞かれ、「自分の怪我のことで頭がいっぱいで、他に何も考えられなかったんです。(現役続行は)僕が決めることじゃないですが、来年あったら、一緒に滑っているところを堪能したいです」と、再対決のエールを送るほどだった。 4回転ジャンプには失敗したが、演技構成点の88.50は、宇野の89.92に次ぐ点数で、その表現力の素晴らしさは、他の出場選手とはレベルが違うものだった。 スピンのレベルで取りこぼしはあったが、連続ジャンプには、2.63点のGOE(出来栄え点)がつき、後半のコレオステップシークエンスには2.36点ものGOE評価があった。 2010年のバンクーバー五輪で銅メダルに輝き、世界を驚愕させた“美しく滑る”そのズバ抜けたスケーティング技術は、錆び付いていないどころか、今なおトップで通用するものだった。 近年、ジャンプの前後に細かいステップや工夫、技術がつめこまれることが当たり前となり、高橋のそれは、まだ時代の流れについていっていないものだが、正確に音を拾いながら、作品の完成度を高める芸術性が際立った。