岡田武史会長のFC今治がJ2昇格「スタジアムを中心に新しいコミュニティをつくり社会を変えたい」
今治に「民間民営」で作った2つのスタジアム
岡田は2つのスタジアムをこの今治の地につくった。 最初は約5000人収容の「ありがとうサービス.夢スタジアム」を約3億円で建てた。 2017年9月10日のこけら落とし(JFL第7節、ヴェルスパ大分戦)には、定員を超える5241人の観客を収容している。 テーマソングの初披露や「友近と交流のある水谷千重子」のハーフタイムショーなど大いににぎわう船出となった。 そして次に、J1基準を満たす最大1万5000人まで増築可能とする「今治里山スタジアム」を約40億円で建設し、2023年1月にオープニングセレモニーを行なった。同年5月1日からアシックスと命名権契約を結び「アシックス里山スタジアム」となった。 5316人収容で2024年シーズンはホーム1試合平均3786人を記録。収容率だけで言えば71.2%と高い数字を誇っている。 昨今、Jリーグ、Bリーグにおいて新しいスタジアム、新しいアリーナの建設が続いている。 筆者は今年サンフレッチェ広島のエディオンピースウイング広島(2万8520人収容)に足を運んだが、どこでも見やすい席、大きなビジョンなどスタジアムそのものの魅力もさることながら、スタジアムに隣接して大きな広場があり、子供たちの遊び場所、人々の交流の場所になっていることがとても印象的だった。 無論、アシックス里山スタジアムもそうである。 「里山ジャルダン」「里山プラザ」など自然のなかで遊べるスペース、交流できるスペースがあり、カフェもある。 スタジアム近くには「イオンモール今治新都心」があり、そこでは買い物や食事も楽しめる。サッカーのみならず、1日中過ごせる場になっている。 土地は今治市からの無償貸与だが、建設費はFC今治で調達している。 コロナ禍で難儀であったことは間違いないが、周りの協力もあって実現に至った。約20億円は金融機関からの融資。企業理念を実現しようとする岡田の本気が染み込んだスタジアムでもある。 インタビューはテゲバジャーロ宮崎とのホームスタジアム最終戦(11月24日)の試合前に、スタジアム隣のカフェ「里山サロン」で行なった。 名物のスコーンを「これ、うまいんだよ」と頬張る岡ちゃんを見て、カフェのスタッフが笑った。 チケットは完売し、イベントや出店もあって人で溢れていた。芝生で遊ぶ親子もいた。ユニフォーム姿の年配の夫婦もいた。岡田が望んでいた光景が広がっていた。 自然と共存でき、里山をコンセプトにした365日人が集まる場所。傾斜のスペースにワイン用のぶどう苗木を植えている。試合日以外はVIPルームやメディアルームなど施設を一般に開放し、ランニングクラブ、ドッグラン、各種フェスなど試合日以外でもいろんなイベントの会場となってにぎやかになりつつある。 2026年春にはスタジアムと連携する商業施設内に開業する、おもちゃ美術館の運営に参画することも決定している。 「ウチがサッカークラブを運営しているだけの会社だったら、これだけの企業が支えてくれないし、こんなに優秀な社員が集まってこないよ。新しいコミュニティをつくりたい、社会を変えたい。ここに共鳴してくれるから集まってくれる」 J1仕様にするために無理につくったわけではない。共助の社会づくりを目指すその拠点、その象徴にしたいという思いがあるからにほかならない。 岡田は言う。 「資本主義も格差と分断で行き詰って、民主主義はポピュリズムで、何が本当かもよくわからない時代になっている。世界の秩序は今後こうなるとかわかる人なんていない。 だからこそ自らが主体的に動き出してお互いが助け合う共助のコミュニティをつくらなきゃいけないんじゃないかと俺は思って、そうやってきた。FC今治というコミュニティを通じて衣食住をお互いに保証しあうことだって可能。 空き家を修理したり、着ない服があれば融通したり、フードバンクを使って誰でも安く食べられる“みんな食堂”をやったり……ベーシックインフラを僕らがモデルとなって実践して、全国に60あるJリーグのクラブと50あるBリーグのクラブが続いていったら、この国は変わるかもしれない。 点から面になったときに、新しい秩序を支援するような動きも出てくると思う。支え合うことで心の豊かさを育むことができるコミュニティ。共感、信頼といった目に見えない資本が大切になってくるはずだから」