大手ゼネコン、納期と採算で「選別受注」 デベロッパーとの力関係が逆転
崩れるピラミッド構造
今後も建設需給の逼迫は続きそうだ。森ビルの小坂雄一常務執行役員は11月、同社が都内で進める大規模再開発案件「六本木5丁目プロジェクト」について「当初の予定を守ることができるか、現在検討中だ」と慎重な見通しを示した。 足元では大阪・関西万博のパビリオン建設が大詰めを迎える。ビルの老朽化に伴う建て替えに加えて、政府から補助金の出る半導体工場や投資が増すデータセンターの需要、能登半島地震復興のための工事なども控えている。 現在、ボトルネックになっているのが電気や水道などの設備関連の工事を請け負う「サブコン(専門工事会社)」だ。「サブコン不足で工事を引き受けられないことが増えており、サブコンの価格交渉力も強まっている」(大手ゼネコン幹部)。不動産コンサルタント、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は、「人手不足の中でさらに職人を育てて一定以上の報酬を出さねばならない。人件費はさらに上がっていくだろう」と見る。 構造問題は、一朝一夕には解決できない。発注者は建設コストの増加を前提とした計画を作り、早い段階から設計会社やゼネコンと相談し、価格転嫁にも柔軟な姿勢を示す必要が出てくるだろう。 ゼネコンは下請けやサブコンとの綿密な連携がより重要になりそうだ。「付き合いの長い会社だけでなく、新たな発注先を開拓すれば価格競争力が高まる」(船井総合研究所の建設・不動産支援本部・鶴田隼人副本部長)。働き方改革やロボット活用などを進める必要もある。 インフラを担う建設産業を、日本は維持できるのか。多くの建設プロジェクトが漂流する現状は、重い問いを突きつけている。 インフロニア・ホールディングス岐部一誠社長兼CEOに聞く 建設業界の慣習、「脱請負」の姿勢で打破 日本の建設業界は長い間、インフレや建設需要の変化に大きく左右されてきた。その背景には、発注者に建設会社が工事の完成を保証し、その報酬を受け取る「請負」の慣習があると考えている。 そこで当社は、10年ほど前から経営戦略の柱に「脱請負」を据え、道路など社会的インフラの運営権を得て、建設から維持管理まで手掛ける事業を始めた。1月には日本風力開発を買収した。 同時に「脱請負契約」を進める。請負契約では、多くの場合コスト上昇分が建設会社に転嫁されてしまう。建設会社も、物価上昇に便乗した高い価格設定で利幅を少しでも大きく確保しようという動きが出てしまう。 建設コストが上がると、利益が減ることを避けるため発注者が工事を止める例もあるようだが、発注者だけがコストやリスクを逃れる方針をとってよいのだろうか。 私は20年ほど前から「原価開示方式」という契約方式を提言しており、受発注者間で原価関連の資料などを共有できるシステムで特許を取り、関係者に開放している。事前に発注者と受注者の間で原価や請負金額を決めておき、発注者と受注者がコストの増減分を分け合うというものだ。 当社でも複数の案件で導入しているが、建設会社と発注者双方にメリットがある。コストが増えた際の価格転嫁がしやすく、逆にコスト減で発注者にお金を返せた例もある。この方式が広がれば、建設会社は技術やプロセスなど、コストでなくバリューの部分で競争できるようになる。米国や欧州では主流だが、日本の民間企業で導入しているのは当社以外では少ない。 多くの産業がバリュー重視のビジネスに転換している。今こそ建設業界も変わるタイミングではないだろうか。
馬塲 貴子