「日本をサッカーの指導者大国にする」オランダで切磋琢磨する“コーチのコーチ”が波瀾万丈キャリアを経て描く壮大なるビジョン【現地発】
転機はアルディージャでの経験。「誰に相談すればいいのか…」
2002年、バルセロナに渡った倉本はバルサが06年のCLで優勝したのを見届けてからビルバオへ移り、最上位の「コーチングライセンス3」を取得。「いつか、Jリーグの監督に」という大志を抱いて2009年に帰国。湘南ベルマーレと大宮アルディージャの育成に関わった。 倉本の転機はアルディージャの中1を受け持った時。1年で担当を外された。 「スペインの時にもU-13のチームの監督をクビになりましたが、あのときは選手との信頼関係が壊れていた。アルディージャでもそうだったんだと思う。でも原因が分からない。ひとつ分かっていたのは、周りのせいではなく、自分が悪かった。ただ、誰に相談すればいいのか、どうすればいいのかが分からなかった。本当に悩んでいた」 知り合いにお薦めの本を訊いては読んでいた。その中に心理学の本がありハマった。そして著者のセミナーに半年通って心理学を深めた。この時期、倉本はアルディージャのジュニア、ジュニアユース、ユースカテゴリー全般を見ていた。 「僕は心理学で学んだことをアルディージャに還元しながら働いた。例えば選手のタイプを見極める。これは諸説あるんですが、人には3つのタイプがあります」 ・目で見て、情報を映像として取り入れるタイプは情報処理スピードが速く、見たらできる ・文字を読んで情報処理するタイプは、全部説明してもらわないと動けない ・なにをするのにも時間がかかるタイプは、コツコツやっているうちに、気が付くと身体の深いところで理解できる 「指導者もこの3つのどれかに当てはまる。そのことに気付かずコーチングすると、残りの2タイプの選手には刺さっていない。だから僕は監督やコーチに『その子にはこういう風なアプローチが良いですよ』とアドバイスしたり、選手に対してはタイプに応じて接したことで『この人、自分のことを良く理解してくれている』と信頼関係を掴めた」 中学3年生を獲得する際のクラブ内プレゼンでも「この選手はすぐ伸びますよ」「この選手は時間をかけたらすごく化ける可能性を秘めている」と心理学は役立った。 「クラブ全体のサポートをし始めたら、指導者が良くなった。指導者が良くなると選手が良くなる。そうなるとチームとして結果がバンバン出た。相談されることがとても増えて、一緒に考えながら改善していくとクラブが良くなっていった」 監督としての倉本がなぜ失敗したかも理解できた。 「選手に対してこういう声がけをすると良くないから、気をつけたほうが良かったとか分かりだした。さらに深堀りしていくと、得意ではないことに憧れから頑張ろうとしていた。自分の強みが分かったので、そっちに比重をかけよう――そう割り切った瞬間から僕はかなり変わった」 そして思った。「もう俺はサッカーコーチをやっている場合じゃない。アルディージャのことは大好き。だけど惰性でこのクラブで働いちゃいけない」と。 「自分はなんで生きているんだろうと考えたとき、『日本中のサッカーコーチの指導力を世界標準にする』というのが僕の使命なんだと思った。だからこそ高校を卒業してスペインに行ってコーチングライセンスを取り、プロサッカー選手ではなかったのに2つのクラブで8年働いた。そこに気付いたとき、J1で監督をやりたいとか、どうでもよくなった」
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