「日本をサッカーの指導者大国にする」オランダで切磋琢磨する“コーチのコーチ”が波瀾万丈キャリアを経て描く壮大なるビジョン【現地発】
日本ではボールゲーム。ヨーロッパではボードゲーム
こうして倉本は2018年に4年勤めたアルディージャを辞め「サッカーコーチのコーチ」として起業した。需要はあった。倉本自身もそうだったが、サッカーコーチには相談する人があまりいない。 「いまでは日本のなかで『サッカーコーチのコーチ』をやりたいという人が増え始めたんです。僕が彼らを育成しているというのもあるんですが、自分でもコーチをやりつつ、他のコーチの指導を客観的に見てあげてフィードバックしたり、困っていることに対してアドバイスしてあげたり、と。そこで僕は多くの『サッカーコーチのコーチ』のひとりとして、相談者からどうやって選んでもらえるかを考えた。 オランダの育成を知りたい人はたくさんいるけれど、情報は少ないし、僕も知りたい。だから『日本の育成をもうちょっと考えていきましょうよ』という風にオランダの情報をシェアしながら活動しています」 家族5人でオランダに住み始めたのは2022年。スペインでも感じたサッカーの理解度の違いがここにあった。 「『サッカーはどういうスポーツですか?』という問いかけに対して、日本ではボールゲーム。選手がいかにテクニックを使ってボールを扱うか――というゲームです。ヨーロッパではボードゲーム。両チームがスペースを取り合う陣取り合戦。そのツールとしてボールがある。だからオフ・ザ・ボール、ポジショニングが大事。相手が邪魔してくるから、それをかいくぐらないといけないし、こっちも相手を邪魔しないといけない。ヨーロッパの人たちはいちいち説明しなくても、サッカーネイティブだから、みんなそう思っている」 ヴィレムⅡでプレーしていたスペイン人MFポール・ジョンチは、倉本がバルセロナでコーチをしていたときに関わった選手だった。 「ポールはバルセロナのアマチュアクラブのU-11、12、13のキャプテンで、オランダで再会したときはお互いに大感激(笑)。彼はヴィレムⅡでもキャプテンをしていて、ポールを追うために僕はシーズンチケットを買った。ポールは家族ぐるみでエスパニョールファン。『エスパニョールと雰囲気、規模が似ていてアットホームだからヴィレムⅡでプレーしている』と彼は言っていました。 僕も降格したシーズン、フェイエノールトに完敗していよいよマズいぞ、という試合後、ヴィレムⅡのサポーターはブーイングしてもおかしくないのに、拍手をしていたのを見て『素敵だな』と思った。毎試合『頑張れ! 頑張れ!』って本当に応援している、めちゃくちゃ温かいクラブです」 昨季はスパルタのシーズンチケットも持っていた。 「斉藤光毅選手との面識は直接はないんですが、僕がいた頃のアルディージャは、横浜FCジュニアユースにいた彼に何回もやられているんです。当時と比較すると、いい意味で彼は変わっていない。前を向くと違いを作るプレーは前からそうだった。 少し話たんですが、彼は『やっぱり真ん中でやりたい』と言うんだけど、オランダサッカーの特性上、CFはポストプレーヤーじゃないとダメ。だからワイドで起用されて、サイドで仕掛けて、右サイドからのクロスに対してセカンドストライカーっぽくなれるし、オランダサッカーに順応したいい例だと思います」 近年、ものすごい数の日本人選手が欧州に渡って活躍している。日本の育成もなかなかなのではないか? 「『日本の選手は欧州のクラブで育成してもらっているな』というのが僕の感覚です。『日本代表に選手になるためにはヨーロッパに行かないとダメ』と言われているから、早い段階で欧州に来るじゃないですか。順応できなかった選手は日本に帰らないといけない。順応している選手は欧州で『フットボールって、こう考えるんだ。今まで何だったんだ。ちゃんと考えないとヤバい』と育成されているわけです。偶発的に出てきた選手が欧州で育てられ、その集合体が日本代表なわけです。そのことが僕は悔しい。 三笘(薫)が現在のサッカー知識レベルで日本から欧州に来ていたら、30億円はくだらなかったはず。でも3億円ちょっとだったんですよ。Jリーグは選手を高値で売ることができていない。ステップアップしやすいと選手も分かっているから、J2からどんどん欧州に来ていますしね。だから、コーチの指導力を上げていないと。そうすると『サッカーはどういうスポーツなんですか? テクニックとかじゃなくて集団戦略ゲームなんですよ』というところからもう一回捉え直さないといけない」
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