ライフセーバーの世界大会に挑む日本代表キャプテンの想い「競技を通して、未来の海を変える」
海離れ解消を狙う、都心でのプログラム
海開き間近の6月下旬の湘南・片瀬西浜海岸。既に人で溢れるビーチに上野さんの姿はあった。競技者として毎日早朝にトレーニングを行う一方、海水浴場の設置期間中は西浜SLSCのパトロールの責任者として安全管理に携わる。 平日の就業後には市や公的救助機関との連携会議に出席。週末には現場にも立って監視業務に就く。 それにしても湘南の海には、世間で言われる“海離れ”とは無縁の光景がある。 ちょうどこの日は西浜SLSCが小学生向けのイベントを開催。ビーチにはクラブに所属する100人近い子供たちで溢れた。これだけ多くの子供の姿を海で目にできるのは湘南ならではである。 「海離れは難しい問題ですよね。この問題について私は、民間企業、自治体、教育機関など多くの団体が一緒に取り組むべき課題だと感じています。 思うに、変えるべきは“海は危険だから近づかない”というスタンス。そうではなく“海にまず行こう、そして安全に楽しもう”というメッセージの発信が重要でしょう。 海へ行くことで、海の危険性を知る、興味深い海の生き物と出会う、開放感ある海の心地良さに触れる、という気付きや学びを得られます。その先に、漁師さん、水族館の職員さん、プロサーファーといった海に関わるプレーヤーの道が開けてきます。 全国各地の海に人の姿が戻るようになるために、まずは“海に行こう”と。そんな動きが広がっていくといいなと思っています」 縁遠い海へ行くきっかけづくりとして、上野さんは昨年11月、ライフセービング協会主催のビーチフラッグイベント「The Beach Flags Series 2023」を東京・渋谷の宮下公園にあるサンドコートで開催。 小中学生向けには体験会、日本代表選手によるデモンストレーションなどのプログラムも用意した。 しかも本イベントは1回だけではなく長期的なプロジェクトを想定しているのだという。今後は地方都市での開催や、それらを予選会としたファイナルイベントの実現も視野に。 「ビーチフラッグという競技を通してライフセービングの認知度を高め、街から海へ人が流れるきっかけになれば」と上野さん。未来の海を変える大きな一歩は、既に踏み出されていたのだ。 熊野淳司=写真 小山内 隆=編集・文
OCEANS編集部