守護神にさえも感じた攻撃意識 佳境のJ1昇格争い…ぶつかり合った両クラブの渇望【コラム】
【カメラマンの目】長崎と千葉による上位同士の戦いは熱い思いが体現された試合に
今シーズンのJ2リーグも残すところ、最終節の1試合だけになった。リーグを戦うチームにとって、目標は言うまでもなく日本プロサッカーリーグ最高峰であるJ1への昇格。自動昇格と昇格プレーオフ出場を目指すチームの争いも、いよいよ最終局面を迎えている。 【実際の声援】「面白い」「1発で覚えられる」 童謡に合わせたJ2躍進クラブサポーターの“独特チャント” 3日に行われたリーグ上位に位置するチーム同士の対戦となったジェフユナイテッド市原・千葉対V・ファーレン長崎の試合は、J1昇格への熱き思いが体現された、実に見応えのある試合となった。フィールドプレーヤーだけでなく、守備の要となるゴールキーパー(GK)も含めたピッチに立つ全選手が高い攻撃意識を持って試合に臨み、白熱の展開を作り出すことになった。 その勝利を目指す方法は、いたってシンブルだった。つまらない打算など入り込む余地などない、なにより相手を力でねじ伏せようとする迫力あるプレーの応酬となった。両チームの攻撃の核となったのはドリブルだ。長崎はFWマテウス・ジェズスと右サイドのマルコス・ギリェルメのドリブル突破を中心に攻撃を仕掛け得点を狙った。特にジェズスが繰り出すフィジカルを武器とした、直線的なドリブルで相手守備網に挑むプレーは迫力があった。 対する千葉はホームながら劣勢となる時間があったが、鋭いカウンター攻撃でゴールへのチャンスを演出していった。長崎の前線のブラジル人に負けず劣らず、FW田中和樹が力強いドリブルで局面の打開を目指していく。ただ、千葉の場合はドリブルだけの仕掛けにこだわらず、素早く展開するパスも合わせた攻撃で前線へと進出していった。チームの得点源であるFW小森飛絢も、ボールのないところでも相手守備陣と駆け引きを繰り返し、激しいマークを掻い潜ってゴールを虎視眈々と狙っていた。ピッチ各所で選手たちのがむしゃらな攻撃精神から生まれるダイナミックで一触即発な争いが展開されていた。 試合は前半4分にギリェルメがPKを決めて長崎が先制。しかし、千葉も前半25分にMFエドゥアルドのヘッドがゴールネットを揺らして一進一退の攻防が続いた。緊張感のある試合展開に、さぞかしサポーターたちも心を熱くさせたことだろう。 後半はさすがに多少ペースダウンしたが、激しい攻防が続くなか、GKでさえ攻撃の意識を強く持っていたことが表されたプレーがあった。後半28分、長崎が与えてしまったPKの窮地。この失点の危機をGK若原智哉がシュートを見事にキャッチして防ぐ。長崎の選手たちにとっては、喜び、そして一旦落ち着いてもいい場面だったが、若原はすぐさま立ち上がると、パントキックで前線へとボールを送り込んだ。この一連のプレーでゴールは生まれなかったが、ピッチに立った両チームの全選手がいかに勝利にこだわっていたかが分かるプレーだった。 結局、勝敗は後半39分にエジガル・ジュニオのゴールで長崎が2-1で勝利した。2位の横浜FCが栃木SCと引き分けたことにより、長崎にとっては最終節でのJ1自動昇格に望みをつなぐ大きな勝利となった。第37節が終了した時点で、J1への切符を手にしたのはJ2優勝も決めた清水エスパルスのみ。清水以下は2位に横浜FC(勝ち点75)、3位の長崎(同72)、4位のファジアーノ岡山(同64)、5位のモンテディオ山形(勝ち点63)、6位の千葉(同61)、7位のベガルタ仙台(同61)と続く。 横浜FCと長崎に自動昇格のチャンスがあり、昇格プレーオフ圏内となる6位以内の争いも、残された最終節の結果によって、大きく変化する可能性がある。現実的にJ1昇格を目指せるチームの勝利への渇望は、果てしなく大きいはずだ。最終節が行われる10日は、各地で好ゲームによるドラマが生まれることは必至となるだろう。 [著者プロフィール] 徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。
徳原隆元 / Takamoto Tokuhara