「母を残して一人で死ねない」92歳母親を殺害、61歳息子に懲役4年の判決 仕事を辞めて介護に専念…経済的に追い詰められる
「母親が殺してと依頼する発言をしたとは認められない」
さらに、争点となった「被告人は母親が殺害を依頼したと誤信していたか」について、裁判所は母親の事件当時の発話能力に着目。 訪問診療・介護に来ていた人物の証言によれば、母親は2022年以降「気持ちいい」「いいあんばい」など簡単な言葉は発していたものの、その他は話しかけてもうなずくのみだったという。 また、2020年に撮られた母親のCT画像を参照すると、この時点で脳がかなり萎縮しアルツハイマー型認知症であったことがわかり、事件のあった2022年には認知症は末期になっていたと思われると指摘。 被告人は事件直前に「殺してちょうだい」との発言を聞いたと主張していたものの、母親が当時、自分の置かれた状況を踏まえて意味のある会話をすることは難しく、被告人に対して真意で殺害を依頼することができないことは明らかであるとして、「母親が殺してと依頼する発言をしたとは認められない」と結論付けた。
法定刑より短い「懲役4年」だった理由
殺人罪の法定刑は「死刑、または無期もしくは5年以上の懲役」だが、今回、被告人には懲役4年の判決が言い渡されている。 裁判長はまず、今回の事件は介護疲れによるものではなく、経済的に追い詰められた結果、母親を道連れに自殺しようとする自分本位なものであったことや、被告人が一環して「母に依頼された」との不合理な発言をして真摯な反省が見られないことなどから執行猶予を付けなかったと説明。 しかし、被告人が愛情を持って母親を献身的に介護していたことや、母親に対する愛情ゆえに「母を残して一人で死ねない」と犯行に至ったというくむべき事情もあることから、酌量減軽したと述べた。
弁護士JP編集部