中国の「過剰生産能力」と「ゾンビ企業」先送りされてきた経済悪化の大元凶
減産によって石炭価格が上昇すると、発改委は一転して操業日数の制限を緩めて生産の回復を促し、16年年末にかけて生産の減少幅は縮小した。石炭産業では炭鉱の閉鎖が相次ぎ、石炭採掘投資は16年に2~3割落ち込んで経済成長の下押し要因になった。
中国は改革開放の過程を通じて国家が統制していたモノの価格を順次、市場化してきた。現在では石油製品など一部を除いてほとんどのモノの価格が市場によって決まっている。本来、過剰生産能力の問題は、市場経済のもとでは、つくり過ぎた製品の価格が下がることによって企業の採算が悪化し、やがて効率の悪い企業が淘汰されることによって解決されるべきものである。それが中国では解決されてこなかったのは、雇用と税収の確保を優先する地方政府が効率の悪い企業に補助金を支給して存続させたためである。
中国株式市場誕生時から、棚上げされてきた「ゾンビ企業」の問題とは?
習・李指導部は「供給側の構造改革」の中で、過剰生産能力の解消とともに、ゾンビ企業の淘汰も目指している。ゾンビ企業とは、赤字を垂れ流しながら、地方政府の補助金や銀行融資によって生きながらえている企業を指す。 ゾンビ企業の淵源は中国の株式市場の誕生にさかのぼる。中国では80年代に農村で生まれた郷鎮企業などで、従業員の労働意欲を刺激するために株式を発行して従業員に割り当てるところが出てきた。従業員持ち株会のようなものである。やがて株式を発行する企業が広がると、証券取引所を開設するニーズが出てきて、90年に上海と深センに社会主義中国の証券取引所が誕生した。 ここで問題なのは、当初、上場企業を選別するのにあたって、地方への割り当て制を採ったことである。地方政府は割り当てられた枠の中で、上場企業を選ぶにあたって、業績や財務状態が優れていたり、将来性がある企業を選ぶのではなく、赤字で存続が危ぶまれる企業の救済手段として株式上場を使ってしまった。こうした企業は株式を上場した後も、赤字が続いて上場を続けるのが難しくなっても、地方政府が補助金で支えて淘汰されることなく存続してきた。また、国有商業銀行もこうした企業に対して、地方政府の意向を汲み取って融資を続けてきた。これがゾンビ企業となっているのである。 「供給側の構造改革」も、ゾンビ企業も、ともに言い方は新しいが、過去から持ち越されてきた課題である。鉄鋼などの過剰生産能力が解決されなかったのも、ゾンビ企業が生き残ってきたのも、地方政府が地元の利益を優先して中央政府の政策を無視し、補助金の支給などで市場原理をゆがめてきたからである。その解決に向けて、市場原理を徹底するのではなく、地方政府に対して行政的に圧力をかけるという、計画経済時代のような手法を取らざるを得ないところに、中国経済の構造的な問題がある。 16年12月に開催した中央経済工作会議では、過剰生産能力の解消に触れた中で、「既に解消された過剰生産能力が復活するのを防がなければならない」と指摘した。中国語の表現では復活することを「死灰復燃」としている。一度消えかかった灰が再び燃え出す意味で、勢いを失ったものが再び活動することを指し、悪い事物に使われる。こうした指摘があることは、鉄鋼であれば製鉄所、石炭であれば炭鉱を表向き閉鎖したとしても、鋼材や石炭の市況が回復すれば再び操業を始めるという動きがみられることを示唆している。地方政府も中央政府の政策が目指すところを理解し、市場原理が貫徹されていかないと、過剰生産能力の解消やゾンビ企業の淘汰も本当に進むことは難しい。 (日本経済研究センター主任研究員 室井 秀太郎)