一人の建築家が「広島・尾道」を海外クリエイターたちとの交流の場に選んだ理由[FRaU]
全国から人が集まるまちがあります。これまでにない暮らしのスタイルやユニークな取り組みで「ここに住んでみたい!」という人が急増中。人気の秘密を探りに、いま注目されているまち、広島県尾道市を訪ねました。 建築家が譲り受けた築約110年の家が、創造と文化交流の場として再生。世界から様々な分野のクリエイターが滞在し、昔ながらの風景をつないでいます。
一人の建築家を動かした、 まちと一軒家との出会い
瀬戸内海に面した広島県の港まち、尾道。土地の名所・千光寺のある大宝山から眼下に、歴史ある日本家屋が建ち並ぶ市街地と穏やかな内海を眺めれば、誰もが不思議とノスタルジックな気持ちになることだろう。数年前、仕事で初めて尾道を訪れたという、スキーマ建築計画の代表で、建築家の長坂常さん。彼を魅了したのも、日本の原風景と言っていい瀬戸内の美しい景色と豊かな環境だった。 「最初に来た時は下町の商店街の辺りを歩いただけでしたが、東京にはないようなまち並みが気に入った。そこで2019年、家族で〈LOG〉に宿泊するため、線路をくぐって北の山手のほうにも登ったんです。そうしたら、そこには想像もしなかった世界が広がっていた。夕日に包まれた風景の中、路地を巡って歩いて、ここに人が住んでいるのかということに少しドキドキしたり、小説の一部のような場所に興奮したことを覚えています」
その後で〈LOG〉の客室から見えた、一軒の邸宅(写真)に一目惚れをする。そここそが、21年夏に長坂さんが譲り受け、国際的な文化交流の拠点〈LLOVE HOUSE ONOMICHI〉として立ち上げることとなった家だった。 「ホテルの部屋から見た建物がすごく魅力的で、取り憑かれてしまった。1階の畳の間に小さな光が灯っていて、ガラス越しに中が覗けたんですね。あそこはどういう場所なのか、持ち主が売りたいみたいだとか、話の流れで値段まで聞いてしまって。でも、その時はまさか僕が東京から遠く離れたこの場所に、家を買うことになるとは思いませんでした」