トランプ次期大統領の関税宣言 中国、メキシコ、カナダはどう出るのか?
米国のドナルド・トランプ次期大統領は就任後に新たな関税を課すと発言し、貿易戦争への懸念が広まっている。同次期大統領は、メキシコとカナダからのすべての輸入品に25%の関税を導入し、中国製品には10%の追加関税を課すと宣言した。 同次期大統領は、麻薬性鎮痛剤のフェンタニルが米国に大量に流入し、国内で過剰摂取が問題になっているとして、これら3国は同薬物の生産と国境を越えた取引を抑制すべきだと主張。さらに隣国のメキシコとカナダに対しては、不法移民の米国への流入を十分に阻止していないと訴えた。 トランプ次期大統領は前政権時の2018年、当時の北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新たな自由貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に署名した。米国がメキシコとカナダに対する関税を導入すれば、トランプ次期大統領は自ら締結した国際協定をほごにすることになる。これは単に貿易を巡る問題というより、トランプ次期大統領が関税を武器に相手国に圧力をかけることを示している。自身の要求が満たされない場合、同次期大統領が関税の導入を実行に移すかどうかは不明だが、これまでの行動を鑑みれば、その可能性はあるだろう。 このやり方を特に嫌う貿易相手国の1つが中国だ。同国はかつてトランプ前大統領が中国製品に対する関税を引き上げた際、米国製品に報復関税をかけ、両国の貿易戦争は一気に拡大した。 メキシコは、トランプ次期大統領がメキシコからの輸入品に関税を導入するのであれば、同国が米国から輸入する製品にも関税をかけると応酬した。カナダ政府関係者はこれに関する取材には応じていないが、メキシコ、カナダ両国は、米国との交渉に応じる意向も示している。一方、中国は強硬策を取ることで知られており、米国側も同じような態度を取れば、2018~19年に米中間で繰り広げられた関税合戦が再燃する恐れもある。
米国は中国、メキシコ、カナダから何を輸入しているのか?
■標的となっている3カ国は米国にとって最大の貿易相手国 標的となっている3カ国は、米国にとって最大の貿易相手国だ。これらの国々と取引される主な製品には、自動車や自動車部品を含む機械類のほか、鉱物燃料などがある。一般に、米国の輸入品の中で、自動車は金額ベースで最大の割合を占め、関税の適用による価格上昇で大きな影響が及ぶことが予想される。メキシコとカナダに工場を持つ大手自動車メーカーには、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティスなどがある。米国の中国からの輸入品は電子機器などの機械類が中心だが、プラスチックや雑貨なども含まれる。 中国が米国製品に報復関税をかければ、米国の輸出企業は再び大打撃を受ける可能性がある。米国の農業生産者は2018~19年にかけて、中国への輸出機会を失ったことで250億ドル(約3兆7600億円)を超える損失を被り、米政府が補償することとなった。中国は現在、当時より多くの農産物を米国から輸入しているため、新たに追加関税が課されれば、前回より深刻な影響が及ぶと考えられる。 中国の農産物の輸入が増えたのは、トランプ前政権時の2020年に米中間で結ばれた、いわゆる「第1段階の合意」の成果だ。その中で中国は、米国産農産物の輸入を拡大することで合意。最終的には米国にとって最大の輸出先となった。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の集団学習センターが運営する経済複雑性観測所(OEC)の資料によると、2022年に米国から中国に輸出された農産物の中で金額が最大となったのは大豆で、約180億ドル(約2兆7000億円)に上った。 中国は農産物以外にも、集積回路や石油製品などを米国から輸入している。一方、カナダとメキシコへの米国の輸出は品目がより多様化しており、関税の導入によってさまざまな分野に影響が及ぶ可能性がある。また、米国が中国から輸入する品目も同様で、カナダやメキシコからの輸入品より多岐にわたっている。中国製品への追加関税が現実のものとなれば、あらゆる品目の価格が上がり、米国の輸入業者は頭を抱えることになるだろう。
Katharina Buchholz