ロシアと周辺の国々の料理と食文化の面白さを語り合う。
ソ連時代への郷愁を誘うコンセプトレストランも登場。
師岡 沼野さんは長年ロシアに行かれている中で、食の変化を感じますか? 沼野 ソ連時代から考えると激変しましたね。実際に暮らしている人が豊かかどうかはさておき、観光客として見ればものは増えたし、ソ連時代はカフェがほとんどなかったのに、最近はチェーン系のカフェがたくさんあります。外国資本のものも含め、レストランもすごく増えました。ハンバーガー店やピッツェリアなど、グローバリゼーションが進む一方で、ロシア料理に特化した店も出てきました。 師岡 『ヨールキ・パールキ』というロシア料理のチェーン店もありますよね。日本でいうファミレスみたいなお店で、意外とおいしかったです。
沼野 ソ連時代へのノスタルジーも強くて、1960~’70年代をテーマにしたコンセプトレストランなども。ロシア人作家、ボリス・アクーニンさんにいろいろ連れていってもらいました。 師岡 スタローバヤという、ソ連時代にあったようなカフェテリア形式の食堂も学生街などにあって楽しいですね。ロシアは魅力的な国なのにウクライナ侵攻という暴挙によって、行けない国、行きたくない国になってしまったことに憤りと悲しみを感じます。 沼野 こうして見るとロシアの食は多様だし、食についてお話しするのは楽しいですが、一方で過去には故意に飢饉を起こしたりするなど、食が戦争や支配の道具になった歴史もありました。特に戦争が行われている今、食べるものがない人たちがいることを忘れてはならないと思うんです。食が常に健全なもの、楽しいものになるよう、人間の知恵を集めていかなければ。 師岡 そのためには、私たち一人ひとりが外の世界に興味を持ち、世界と自分がつながる必要がありますよね。食べ物はその足がかりの一つになってくれるのかもしれません。