ノーベル賞が見逃したAI研究者、甘利俊一氏「ヒントンはよく粘った」
10年前に同じモデルで論文執筆
甘利先生の67年の論文は、あくまで理論の研究だったと思います。実際に学習もしていたとは、重要な事実のように感じます。 甘利氏:当時、私は九州大学で助教授をしていました。ちょうど大学にコンピューターが入ったので、それを使ったシミュレーションの研究を、学生の修士論文の題材に選んだんです。ごく簡単だけれどそれ以前の研究ではできなかった問題を、5層の確率勾配降下法でやってみたらうまくいった。たぶん世界で最初の、深層学習のシミュレーションだと思います。 その頃は、「理論だけで十分だ。シミュレーションなんて、やったらできるに決まっている」と思っていたので、国際学会には出さなかった。でも共立出版の『情報理論Ⅱ 情報の幾何学的理論』(1968)に書いたので、証拠は残っています。 シュミットフーバーが「甘利、お前が最初だという証拠はあるか」って聞くから、この本を一部だけコピーして送ったんです。そうしたら「甘利、この本を英語に翻訳してくれ」と。そんなこと言われても、できないよと(笑)。 ホップフィールド氏が提案した連想記憶モデルは、その10年前に甘利先生が提案したモデルと同じでした。これは「甘利―ホップフィールドモデル」と呼ぶべきだ、との声もあります。正直なところ、受賞されなかったことに不満はないのですか。 甘利氏:しばらくの間は「甘利―ホップフィールド」と引用する論文もあったんですよ。(イタリアの物理学者で故人の)ダニエル・アミットも、頑張って「甘利の名前を入れるべきだ」とアピールしてくれたけど、次第に甘利の名前は消えちゃった。 ネットで誰かが「甘利の恨み節を聞きたい」とか書いていらっしゃいましたけど、そんなこと言ってもしょうがないじゃないですか(笑)。80年代以降で、しかも今の人工知能の隆盛に直接に大きな影響を与えた人物といえば、ヒントンとホップフィールドなんでしょうね。追加でシュミットフーバーが入っても不思議ではなかったけれど。 理化学研究所のコメントで「人工知能の原理は日本にもある」と書かれていますが、本当は「日本にこそある」と書きたかったのでは。 甘利氏:実は「も」を入れるかどうか迷いました。でも、「日本にも」にしたほうがよいなと。だって、もっと遡れば、例えば(米国のニューラルネットワークの開拓者で、故人の)フランク・ローゼンブラットとかにも源流があるわけです。「日本だけ」ということはないですね。