ノーベル賞が見逃したAI研究者、甘利俊一氏「ヒントンはよく粘った」
「実用で粘ってくれたヒントンは偉い」
NHK放送技術研究所に所属していた福島邦彦先生も、深層学習の原型と言える「ネオコグニトロン」を70年代後半、世界に先駆けて発表しています。あえてノーベル賞委員会が「80年代以降」に重きを置いたのはなぜなのでしょう。 甘利氏:福島先生の業績もたいへん素晴らしいものです。ただネオコグニトロンの発表もぎりぎり70年代なので、入らなかったのですかね。遡るときりがない、というのもあったのでしょうけれど。 あまり気にしていらっしゃらないのですか。 甘利氏:この年になると、もう超越して(笑)。ただ、ノーベル賞委員会の資料では、私の連想記憶モデルの論文は引用されているけれども、深層回路の研究に関しては一切触れられていないんです。ヒントンの発見の元に当たるほうですね。 ヒントン氏自身も甘利先生の功績に言及していたのに、ノーベル賞委員会が甘利先生の研究を見逃すようなことがあるのですか。 甘利氏:私の論文はちょっと古いんだよね。今だと機械学習の論文はどのジャーナルに出るのか決まっているけど、その頃はあちこちバラバラに出されていて。当時は冬の時代でしたし。でも私も、あの研究は引用されてしかるべきだと思っています。 ノーベル賞は、本当のパイオニアに与えるものという印象でした。 甘利氏:もともとノーベル賞は源流に遡っていましたね。でも今の人工知能の源流はどこだろうと考えると、生きている人で「この人」っていう人はあまりいないんですよね。私が受賞しなくて悔しいと言ってくださる方がいるのはうれしいけれども、しょうがない。世の中は巡り合わせだからね。 僕も福島さんも、ニューラルネットワークをもっと実用の手段として発展させるという発想はなかったんですよね。理論として面白ければそれでいいと。日本のコミュニティーでもそういう動きはなかった。80年代は企業もみんな興味を示したんですよ。でも当時のコンピューターではあまり成果が上げられなくて、しぼんじゃった。改めて、それでも粘っていたヒントンは偉いね。 (つづく)
杉山 翔吾