THAADミサイルは日本用? 韓国で配備反対論の背景
これは、かなり極端(発射角約10度)なディプレスト弾道と呼ばれる弾道経路でのミサイル発射の例です。ディプレスト弾道は、ロフト弾道とは逆の、野球のライナー性の弾道です。(図2)は、某ミサイルを使い、ディプレスト弾道により、北朝鮮の東倉里(トンチャンリ)から嘉手納を狙った場合のシミュレーションです。この弾道ですと、ロケット噴射が終わった段階での高度がやっと40キロを越えた程度で、最大高度でも55キロ程度です。 このシミュレーションは、大気の存在を考慮しない非常に簡単なシミュレーションなので、実際にディプレスト弾道でミサイルを発射する際には、濃密な大気を出るまでは垂直に近い角度で上昇し、その後、水平方向に加速する重力ターンを行うでしょう。また、再突入時にも機動が必要でしょう。その場合、高度は全体的に10キロ程度上昇すると思われます。それでも、加速終了時の高度は50キロ、最大でも65キロで、高度の点では、ほぼ全域がTHAAD対処高度です。
水平位置では、加速終了時に、約400キロ飛翔しているため、(図3)を見れば分かるとおり、韓国の西海上上空を飛翔しています。 この時点からTHAADミサイルを発射した場合、THAADミサイルの方が低速度である事もあり、対処範囲は広くはありませんが、韓国南部から発射すれば迎撃は可能です。
ディプレスト弾道の正体と北朝鮮の意図
さて、この嘉手納をディプレスト弾道で攻撃できる某ミサイルを、ほぼ最大射程の飛翔が可能となる発射角40度程度で飛翔させるとどうなるか見てみます。結果は、(図4)のとおりとなり、グアムを攻撃可能であることが分かります。
つまりこのミサイルは、ムスダンなのです。(ムスダンミサイルは、射程3200~4000キロの中距離弾道ミサイルで、グアムが主目標とみられる)。グアムを攻撃可能なムスダンを使えば、嘉手納をディプレスト弾道で攻撃可能だということなのですが、重要なのは、このプロファイル(ディプレスト弾道)での攻撃の意義です。 ムスダンは高速のため、PAC-3での迎撃が不可能です。また、上記(図2)のムスダンによるディプレスト弾道では、最大高度でも70キロに達しないため、イージスSM-3での迎撃も不可能です。(イージスSM-3は、ミッドコースフェイズ用の迎撃ミサイルであるため、対処可能高度は70km以上)。つまり、ムスダンによるディプレスト弾道攻撃を用いれば、北朝鮮は、日米による弾道ミサイル防衛網を突破し、嘉手納を潰すことが可能なのです。 同じ事は、佐世保、岩国、横田、三沢など、在日米軍主要基地のどこに対しても言えます。(ただし、北朝鮮から三沢に向かうミサイルを、韓国国内配備のTHAADで迎撃することは不可能でしょう)。