THAADミサイルは日本用? 韓国で配備反対論の背景
THAADの韓国配備の意義と朴政権
韓国に対しては、北朝鮮からスカッドなどの多数の短射程の弾道ミサイルによる攻撃が可能で、ソウルなど北部の都市は、火砲での攻撃を受ける可能性さえあります。そこに今更THAADを配備したところで、北朝鮮が本気で攻撃するつもりになれば、焼け石に水みたいなモノです。 アメリカは、THAADが広範囲の対処が可能であることを触れ込んでいますが、嘘ではないものの、戦略環境を考えた場合、意味があるかは非常に疑わしいと言わざるを得ません。 また、上で示したようなムスダンによるディプレスト弾道に対しても、THAADを日本国内に配備しても、在日米軍基地をで防衛することができる可能性もありますが、日本列島が北朝鮮方向には縦深がないこともあり、弾道高度が低すぎてTHAADでの迎撃が不可能の可能性があります。特に、沖縄に所在する嘉手納に関しては、不可能である可能性が高いでしょう。 また過去には、日本の防衛省がTHAAD配備を検討しているとの報道が出たこともあるとおり、日本にとっては非常に有効な装備であるため、アメリカとしてTHAADを配備しなくとも、日本が自ら金を出してTHAADを買うかもしれないという算段もあるでしょう。 以上の事から、韓国へのTHAAD配備は、日本、もっと正確に言えば、在日米軍基地を、現在の弾道ミサイル防衛網では迎撃不可能なムスダンを使用したディプレスト弾道攻撃から防衛するためのモノである可能性があります。 また、そうであれば、韓国がこのTHAAD配備に強く反対する理由も理解できるというものです。反日外交を展開する朴槿恵政権としては、国民の手前、THAAD配備の意図が在日米軍基地防衛にあるならば、韓国国内への配備を認めることは到底できないはずです。
この仮説の最大の難点は、北朝鮮が、約10度、実際に撃つとしたら重力ターンや、終末機動を要するであろう極端なディプレスト弾道で、弾道ミサイルを射撃可能なのかという点です。ですが、曲がりなりにも衛星軌道に物体を投入可能なのですから、重力ターン程度は可能なはずです。 また、日米韓軍事当局は、細かいデータを発表していませんが、最近の北朝鮮による弾道ミサイル射撃には、自衛隊のレーダーによる捕捉ができなかったと疑われるものもあります。その理由は、高度の低いディプレスト弾道で撃ったため、弾道ミサイルが水平線上に現れず、観測できなかった可能性もあります。 米軍が、北朝鮮によるディプレスト弾道能力を目にして、今回のTHAAD配備に動いている可能性は、十分に考えられるでしょう。 (数多久遠 /作家・元航空自衛官)(弾道ミサイルシミュレーション協力:RVMX)
■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、ブロガー。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。一方、ブロガーとしても活躍し、ミサイル防衛、防衛関係法規、防衛力整備など、防衛問題全般で鋭い解説記事を書いている。著書に、『黎明の笛』(祥伝社)がある