THAADミサイルは日本用? 韓国で配備反対論の背景
「終末段階」用のTHAADの迎撃能力
弾道ミサイル防衛では、弾道ミサイルの飛翔を3つの段階に分け、それぞれの特徴に応じた迎撃手段を講じています。 上昇段階(ブーストフェイズ)は発射からロケットによる加速が終了するまで、中間段階(ミッドコースフェイズ)は加速を終えた弾道ミサイルが宇宙空間を慣性飛行している段階、終末段階(ターミナルフェイズ)は弾道ミサイルが大気圏に再突入してから着弾するまでです。(ただし、どこからかが大気圏なのかは微妙な問題で、ミッドコースフェイズとターミナルフェイズの境界は曖昧です)
THAADは、ターミナルフェイズ用の迎撃ミサイルです。そのため、THAADを用いて日本に飛来する弾道ミサイル迎撃するつもりなら、日本に置かなければならないことは、自明と言えます。これは、ミサイル防衛にある程度詳しい人には、良く知られた事実です。そのため、韓国・時事INの報道は、嘲笑の対象になっているのです。
平壌から東京に向けて、ノドンミサイルをロフテッド弾道と呼ばれる、テニスのロビングのような、山なりの軌道で撃つと、最高高度は500キロにも達します。(ノドンミサイルは、最大射程1300~2000キロの準中距離弾道ミサイルで、ほぼ日本及び在日米軍基地用)。 ターミナルフェイズ対処用のTHAADは、対処可能高度が40~150キロです。(図1)のノドンミサイルの弾道ですと、THAADの対処領域は最後の15%程度でしかないのです。 ですが、ここには大きな盲点があります。
ディプレスト弾道に対するTHAAD迎撃
盲点は、THAADが、ターミナルフェイズ用迎撃ミサイルではあるものの、ターミナルフェイズにしか使えない兵器ではなく、「ターミナルフェイズの環境・領域」でしか使えない兵器であるということです。 もう少し具体的に言うと、高度40~150キロの上層大気圏内で、“自由落下中”の弾道ミサイルならば、迎撃可能であるということです。ここで問題なのは、自由落下中という点です。高校で物理を取った人であればピンとくるでしょう。上昇中であっても、自由落下中、つまりミサイルのロケット噴射が終わっていれば、迎撃可能なのです。ただし、これはTHAADのミサイルが追いつければの話。 上の(図1)の場合、ノドンの燃焼終了時の高度は、200キロを越えています。つまり、この弾道に対しては、韓国にTHAADを配備したところで、全く意味はありません。 しかし、次の(図2)の場合、THAADは対処が可能となるかもしれません。