<TPP>食料自給率に2つの問題点/木暮太一のやさしいニュース解説
廃棄食料が多いほど自給率が下がる
―――「なるほどね。で、もうひとつの問題点って?」 もうひとつの問題点は、この自給率の計算方法です。 自給率は「日本中で出回っている食材のうち、実際に食べられた“日本産食品”は何%か」で計算されています。つまり、カロリーベースの自給率計算は、分母に廃棄食料も含まれていて、無駄な食材がたくさん増えれば、自動的に自給率が下がってしまうことになるのです。 廃棄分を差し引けば、自給率はカロリー計算でも50%まで上がるという試算もあります。食料が余れば余るほど自給率が下がるという変な仕組みになっているのです。 ―――「え、ホント?」 コンビニとかスーパーでは、毎日必ず売れ残りがでます。廃棄量は年間で2000万トンといわれています。そして、そのうちその6割が家庭から出ています。 そんなムダな食べ物が増えると日本の食料自給率が下がることになります。日本中に食べ物があふれて、食べきれなくなったらどんどん自給率が下がるのですね。 最近、食品メーカーの間で、賞味期限を見直す動きが広がっています。まだ食べられる食品が廃棄される「食品ロス」を減らすためです。賞味期限は、現状かなり「余裕」を持って設定されています。そのため、実際はまったく品質に問題ないのに捨てられてしまうものも多い、また賞味期限が迫っているという理由でスーパーの棚から下げられてしまうものも多いのです。
賞味期限の見直しで自給率改善も
もし適正に賞味期限を設定することができれば、その分販売のチャンスが拡がるので、利益率改善につながります。また震災を機に高まっている「備蓄需要」も開拓できます。 さらに国全体で見れば、今回のテーマである自給率改善にもつながるでしょう。ムダで捨てられる食料が増えると自給率が下がるので、逆にムダがなくなれば自給率があがります。 もちろん、各食品メーカーが自給率アップを目指しているわけではありませんが、副次的にはそういう効果もありそうです。 日本の農業を守れ! TPPなんかに参加したら、食料自給率が下がるって大変だぞ! と危惧する声があります。たしかに、日本の農業を守ることは大事です。でも、自給率がどうやって決まっているかも知っておかないといけませんね。 ----- 木暮 太一(こぐれ・たいち) 経済ジャーナリスト、(社)教育コミュニケーション協会代表理事。相手の目線に立った伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学などで多くの講演活動を行っている。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ「命より重い!」お金の話』など著書36冊、累計80万部。最新刊は『伝え方の教科書』。