「Microsoft Flight Simulator 2024」が登場!ナデラCEOもお気に入りの理由とは?開発責任者インタビュー
「Microsoft Flight Simulator 2024」が11月19日にリリースされた。フライトシミュレーションゲームの定番といえるソフトだが、航空機に加え、船舶や世界の動物などを取り入れ強化された新版となっている。 【この記事に関する別の画像を見る】 このソフトの責任者であるヨーグ・ニューマン氏は、「今では我々のCEOであるサティア・ナデラがこのタイトルの大ファンなんだ」と明らかにしてくれた。ナデラCEOがFlight Simulatorのファンである理由は、なぜなのだろうか? ■ 最初の製品リリースは英語版Wordと同じ1982年 古くからのパソコンユーザーならご存知だろうが、Microsoft Flight Simulatorは歴史の長いソフトである。最初のバージョンが発売されたのは1982年のことだという。 私事で恐縮だが、筆者は1990年代前半にゲームソフトを担当していた。当時、ソフトウェア流通を行なっている企業からゲームソフトの販売ランキングをもらっていたのだが、新作が発売されれば必ず首位を獲るのがMicrosoft Flight Simulatorだった。 「Microsoftが新しいOSを発売する際、そのOSの機能をフルに生かしたソフトがFlight Simulatorだ」 「実はビル・ゲイツがFlight Simulatorファンで、開発を厳命したらしい」 ……などなど、さまざまな“噂”が飛び交った。 今回、インタビューに応じてくれたMicrosoft Flight Simulator 責任者 ヨーグ・ニューマン氏はこのソフトが長い歴史を重ねてきた理由を次のように分析する。 「それはFlight Simulatorが忠実にフライトシミュレーションを再現したソフトだからではないか。1982年に最初の製品を出して以来11回新作をリリースし、最新作で12回目のリリースとなるが、ずっとリアリズム、フライトの現実を反映したソフトであり続けていることが人気の秘訣だと思う」。 インタビューはオンラインで行なったが、ニューマン氏の背景には歴代のFlight Simulatorのパッケージが並んでいた。 せっかくなので、上記の“噂”について尋ねてみた。すると、「その通り。間違っていない」と答えたニューマン氏はにっこりと笑った。 確かに最初にこの製品がリリースされた1982年は、MicrosoftがXboxを発売する遙かに前のことである。調べてみたところ、英語版Microsoft Wordの最初のバージョンが発売されたのもこの年だそうで、Microsoftのソフトウェア黎明期の製品ということになる。 その時点のOSの性能を生かして開発され、フライトの様子をできるだけ忠実に再現しようとしたフライトシミュレーションソフトということなのだろう。 Flight Simulator 2020では世界中の都市、地形をリアルに再現し、プレイヤーは本物の飛行機を操縦する感覚を味わうことができる。グラフィックスが高精細である上、Live Traffic機能を利用することで、実際の航空機の位置や飛行経路をシミュレーションに反映できる。自分でプレイする人は、リアルな飛行体験を再現することができる。自分でプレイせず横から見ているだけでも、航空関係者になったような気分を味わうことができるソフトとなっている。 ■ 開発陣は前バージョンの800人体制に こうした歴史を踏まえ登場したMicrosoft Flight Simulator 2024だが、公開されている映像を見ると、ドキュメンタリー番組で世界の様子を見ているような気分になってくる。自分でプレイしなくても、映像を見ているだけでも十分に楽しめるようなクォリティなのだ。 「2020年版は、それまで実現できなかった世界全体をカバーし、衛星データを活用するといった試みを実現することができた。評価を得ることもできた。しかし、そこに満足しているわけにはいかない。コアなフライトシミュレータユーザー、コアなゲーマー、特定の層に属していないユーザーなど異なる層にインタビューを行なった。そこで分かったのは、航空機だけでなく、船舶や動物や自然などもっとさまざまなデータを取り込んで、地球全体を再現したゲームにしてほしいという声だった」。 この、「地球全体を再現する」ことがFlight Simulator 2024の最大の特徴となっている。リアルな世界をバーチャル世界上で再現するデジタルツイン、この対象を地球全体にまで拡大したのがFlight Simulator 2024なのだという。 「2020では実際の航空機の位置や飛行経路を反映することができたが、2024では最新の船舶データも30秒ごとに取り込むことができる。船舶だけでなく、動物の情報も取り込んでいる。動物が年間、どういった移動をしているのかといった情報を取り込んでいるので、その時期の動物の姿を見ることもできるようになっている。 やはりデジタルツインというのが最もエキサイティングなものの1つだと思っている。世界中には、いろんなセンサーがある。空にもあるし、車にも電話にもスマートフォンの中にもセンサーが搭載されている。こうしたセンサーデータをクラウドに格納することで、によって、ほしいものをダウンロードして活用するといった世界を実現していきたいと考えている」。 しかし、地球全体をデジタルツインとして再現するとなると、とてつもなく開発パワーが必要になりそうだが。 「実はFlight Simulator 2024では、開発人員を大幅に増員した。2020の時には100人態勢だったが、2024では800人が開発に携わっている。それだけではなく、外部のパワーを活用させてもらったことが今回の開発の大きな特徴といえる」。 外部の力を借りて開発するということは、どういうことなのか。 「少しアプローチ変え、すべてを独自開発するのではなく、いろいろな分野のエキスパート、専門家やコミュニティとパートナーシップを組んで開発を進めていった。たとえば船舶の専門家との連携や、動物に関する専門家など、25のチームと協力体制を持っている」。 外部と協力体制を作るだけではなく、Microsoft自身が開発の中で獲得したデータをオープンデータとして公開している。 「Flight Simulatorの世界を作り出すために、多くのリサーチを行なった。たとえば、世界中に約8万のヘリポートがある。これについては、元々データベースがあったわけではないので、私たちの方でリサーチを行ない、情報を集め蓄積する必要があった。ヘリポート以外にも、石油掘削装置のオイルリグなど、実際の世界にはどんなものがあるのかを調べたが、自分たちで集めて終わりではなく、オープンデータ、オープンストリートマップとして提供している」。 こうしたデータが、次に思わぬものに活用されることもありそうだ。 ■ 動物を見るため、行ってみたい土地に行ってみるため……といった楽しみ方も Flight Simulatorに興味を持ち、初めてプレイする人向けには、「2020をプレイした人から、どこからプレイを始めていいのか分からないという声があったので、2024では体系立ててプレイすることができるようになっている。初めてFlight Simulatorをプレイする人であっても楽しくプレイしてもらえるはずだ」とニューマン氏は話す。 また、高精細グラフィックスと地球を再現した映像を見て楽しむという使い方もありだという。 「私はドイツ出身だが、自分の娘達をドイツに連れて行くことは容易ではない。そこでFlight Simulatorを使ってドイツの山に行き、ここがお父さんが子どもの頃に行った山だよと子ども達に故郷を紹介するといった使い方をしてもいいと思う。もちろん、動物の様子を見るために動物がいる場所を巡るなんて使い方も楽しいはずだ。 そういえば、私は2度、日本に行ったことがあるが、残念ながら富士山に行ったことはない。富士山を見るためにFlight Simulatorを楽しむというのも試してみたいと思っている」。 さすが地球をデジタルツインで再現したというだけあって、これまでのゲームとはひと味違う楽しみ方もできるようだ。 最後に、ニューマン氏は思わぬことを話してくれた。 「最初に昔はビル・ゲイツがFlight Simulatorのファンだという話しをしたが、現在では、我々のCEOのサティア・ナデラがFlight Simulatorが大好きだ」。 ナデラCEOが大ファン?ナデラCEOはこのソフトのどんな点を気に入っているのだろうか。 「Flight Simulatorには、Microsoftが提供することができる最新テクノロジーが詰まっているからだ。地球のデジタルツインとはどんなものか体感できる点に加え、Bing Map、空間、音声スピーチ機能など、さまざまな最新テクノロジーが使われている。最新テクノロジーとはどんなものか体感するために、Flight Simulatorを使うのも1つの楽しみ方だと思う」。 なるほど、確かにデジタルツインとはどんなものか、これほどリアルに体感できるソフトはそうない。昔、Flight Simulatorをプレイしたものの数十年、プレイしていなかったという人も、PCの機能をフルに活用した最新技術を体感する機会としてFlight Simulator 2024をプレイするというのも楽しみ方の1つといえそうだ。
PC Watch,三浦 優子