米を震撼させたフリント水質汚染 「環境レイシズム」は格差社会の象徴か?
「環境レイシズム」の犠牲者だという声も
フリントはゼネラルモーターズ(GM)の発祥の地としても知られ、1920年代にGMが本社機能をデトロイトに移転させてからも、「企業城下町」として数多くの自動車を生産してきました。アメリカ国内における自動車産業の成長と比例するように、20世紀初頭にはわずか1万3000人ほどだった町の人口は、1960年代には20万人近くにまで達しピークを迎えます。 しかし、外国車のアメリカ国内での売り上げ減少はデトロイト周辺の経済に大きな影響を及ぼし、1980年代からは10年間で数万人の人口流失が続きます。2009年のGM経営破たんは町の財政悪化と人口流出に拍車をかけ、現在は10万人弱が暮らしているとされます。 フリント市民の約57パーセントは黒人で、市民の平均年収は2万2000ドルほど。アメリカでも最も貧しい町の部類に入ります。「フリント川における深刻な水質汚染の発生や、その川を水源とする水道水の使用、そして健康被害等の対応における行政側の腰の重さは、ミドルクラスの白人が多く住む郊外で発生していたら違う結果になったのではないか」という指摘も存在します。 1966年の米環境保護庁による報告ではすでにフリント川の水質汚染が問題視され、それによってフリントは全ての水道水をデトロイトから購入するようになったわけですが、汚染された水を使う決断をした背景には人種や貧困層に対する行政側の差別意識があったのではないかという指摘も存在します。「環境レイシズム」という言葉が頻繁に使われるのも、今回のフリント水質汚染問題の特徴です。
「フリント」は大統領選挙に影響を与えるか?
フリントへの支援が叫ばれる中、米連邦議会上院は2月24日、鉛に汚染された配管の修理・交換を含むインフラ改善を目的とした総額2億2000万ドルの緊急支援で仮合意に至りましたが、大統領候補でもあるテッド・クルーズ氏ら数名の共和党議員は、ミシガン州やフリント市自治体当局が問題解決に向けた具体的な計画を提示しない現状を問題視し、緊急支援の早急な実施には難色を示しています。ハリケーンや地震、大雪といった自然災害ではなく、自治体側の政治的な判断ミスが水質汚染を引き起こし、対応策が自治体側から出されない現状は間違っているというのが言い分です。ミシガン州のスナイダー知事が共和党という背景もあってか、マルコ・ルビオやドナルド・トランプといった共和党の大統領候補者はフリント水質汚染についての言及を避けています。