「妊娠は待てと言われました」オリンピックに挑戦する女性選手が直面する問題とは?
パリ・オリンピック開催が迫っている。妊娠中の選手の地位は改善されつつあるとはいえ、ハイレベルなスポーツ選手にとって子供を作ることはいまなお挑戦であることに変わりはない。 2023年10月、ル・アーヴル。単胴艇ロクシターヌ・アン・プロヴァンスは追い風が吹くのを待っている。マルティニク島を目指すトランザット・ジャック・ヴァブル・ヨットレースが間もなくスタートする。船の甲板と帆には、回復力を象徴するカレープラントの花が描かれている。過酷な環境で力を発揮し、摘花された後でも萎れないことで知られる花だ。これがクラリス・クレメールと、ペアを組むイギリス人のアラン・ロバーツのヨットだ(取材後、ふたりは11月20日にレースを完走し、9位入賞を果たした)。2023年トランザット・ジャック・ヴァブル・ヨットレースに臨むふたりのスローガンは「Race for Equity(男女平等のために走破する)」。無寄港で世界一周を目指すヴァンデ・グローブ・ヨットレースで2021年に女子ベスト記録を打ち立て、2024年に同レース再出場を目指していたヨット界のチャンピオンは、スポンサーを失うという困難な時期を乗り越え、新しいページをめくろうとしている。彼女を選考から外した理由について、スポンサーは1年間に複数のレースに出場していることを条件とする、スキッパーに適用される新たな選考ルールを引き合いに出した。これは妊娠、出産を経験した選手ークラリスもそのひとりだったーを排除するルールに他ならない。「21世紀に、このようなルールが平等だなどと言われて、誰が納得するでしょう?そのうち女性出場選手が少ないと嘆くことになるのは目に見えている」とクラリスはフェイスブックに投稿していた。
妊娠というタブー
過酷なレースのスタートを控え、彼女は正当な怒りを表明したこの時期のことを振り返る。SNSでは彼女を支持する声だけでなく非難する声も上がった。「出産は、多くの業界でもそうですが、まだ解決されていない問題です。1970年代にようやく徐々に女性にも門戸が開かれるようになったヨットレースの世界では、とりわけ対応が遅れています。公式メッセージでは、女性に開かれたインクルーシブなレースと謳われていますが、妊娠のような女性選手に特有の事情を考慮に入れるために本当に必要なことはほとんど何もなされていません」。チームメイトたちに子どもを作りたいと伝えたとき、クラリスは31歳だった。「私たちの競技はとくに不確かさと向き合う競技です。それなのに妊娠という不確実性は他のこととは違うのだと、すぐに思い知らされました」。彼女は母親になる準備を整えていたこの時期に味わった苦々しさを今でも忘れていない。「妊娠は待てと言われました。でも、妊娠率は35歳を過ぎたら低下し始めることは知っていました。私は船乗りです。どんな逆境にも立ち向かう覚悟はあります。でも、妊娠しているという理由でチームを失うのはとても辛い出来事でした」 記録保持者のクラリスがレース出場を断念するという事態に、ついに上層部も動き出し、スポーツ担当相から電話を受けたフランスヨット連盟代表が遺憾の意を表明するに至った。ヴァンデ・グローブ委員会は2028年に選手の出産・育児を考慮に入れた新しいルールを制定すると発表した。もはや女子スポーツはマイナーなものではない。まだ遠い道のりではあるが、複数の競技で給与格差の是正に向けた取り組みが始まっており(アメリカのサッカー、テニスの世界大会など)、大金を稼ぐ女子選手もいる(テニス選手の大阪なおみの2022年の年収は5100ドル。キリアン・ムバペは4800万ドルだった)。いまや女子スポーツは金になるビジネスでもある。2023年8月、FIFA会長ジャンニ・インファンティーノはサッカー女子ワールドカップの売上高が5億7000万ドルに上ったと誇らしげに発表した。