「いま思うと、脳をやられていました」小林悠が悩んだ日々。川崎フロンターレのためとエゴの狭間で出した答え【独占取材】
●「チームのため」と「ストライカーのエゴ」その狭間で出した答え
「中山雅史さんの話をしてくれたんですよ。ゴンさんもジュビロ磐田でキャプテンだったけど、パスをすべてよこせ、といった感じだったと。それまではチームを最優先させるべきか、もっとエゴを出すべきかで悩みましたけど、フォワードはやはりゴールだと思えて。チームを任せられる選手は大勢いたし、無理をしてチームを第一に考えるのはもうやめよう、ゴールを決めればそれがチームのためになると整理できてからですね」 その後の19試合で19ゴールを量産した軌跡のクライマックスは、12月2日の大宮アルディージャとの最終節。開始1分に先制した川崎は、小林がさらに3ゴールを連発して勝利を確定させた。 現時点でも唯一のハットトリックを達成し、味方がもう1点を加えて試合を終えた直後に奇跡の一報が届いた。キックオフ前で首位だった鹿島が磐田とまさかのドローに終わった結果、勝ち点で並び、得失点差で大きく上回った川崎がリーグ戦を制し、悲願の初タイトルを手にした瞬間だった。 「大差がついた終盤にベンチを見ると、みんなが0対0だと伝えていて、このまま終わってくれと。あのシーズンだけじゃなくて、怪我でつらかった時期を含めて、それまでのすべてが本当に間違っていなかった、報われたと思えて。たくさん苦労したけど、本当に忘れられないすごく幸せな瞬間でした」 人事を尽くして天命をえた直後。ランキング1位だったFW杉本健勇をも逆転し、得点王のタイトルも手にした小林は個人的な喜びも忘れて、ホームのピッチ上で無我夢中になって誰かを探しはじめた。
●黄金時代の始まり「あの優勝でチームが変わった」
「憲剛さんはどこだと探し回って、憲剛さんと抱き合って、2人で『ありがとう』と言ってまた泣いて。そりゃあ憲剛さんも泣きますよ。ずっとフロンターレを引っ張ってきて、何回2位に泣いたのか。憲剛さんと一緒に喜べたのは一生忘れられない最高の思い出だし、加えてあの優勝でチームも変わりました。どうすればタイトルを取れるのか、という基準といったものがわかったというか、最低限これをやっていたとか、これはもう当たり前だといったものができて、そこからフロンターレは多くのタイトルを取ってきたので」 2018シーズンに連覇を達成し、2019シーズンのYBCルヴァンカップ初優勝をへて2020、2021シーズンと再びリーグ戦を連覇。さらに2020、2023シーズンと天皇杯を制し、黄金時代を迎えた川崎で時間の経過とともに川崎のチーム状況と、小林が置かれた立場も変化を遂げていった。(最終回に続く) (取材・文:藤江直人)
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