堅調さ際立つシンガポール商業用不動産市場、ただ一つ大きな例外も
都心部を好むシンガポールのホワイトカラー労働者にとって、このビジネスパークはなお法外に遠い。ある銀行員が匿名を条件に打ち明けたところによると、公共交通機関を利用すると料金は2ドル程度だが、片道1時間半以上を要する。タクシーやライドシェアを利用すれば所要時間は半分以下だが、ピーク時には45ドルもかかるという。
通勤を容易にするため、スタンダードチャータードなど一部企業は、市内の複数の停留所や地下鉄駅からチャンギまで従業員を運ぶシャトルバスを運行している。シンガポールは島の端から端までの移動時間を短縮するため、新しい地下鉄路線を建設中だが、完成までにはまだ何年もかかる。
チャンギビジネスパークはまた、ビジネスニーズを満たすための外国人労働者誘致への市民の不安に対する「避雷針」にもなっている。テクニカルな業務が多いため、祖国を離れたインド人労働者が「集中している」とかつて閣僚が発言したこともあり、地元ではこの地域を「チェンナイビジネスパーク」あるいは「チャンガルール」と呼ぶ人もいる。
追い打ち
シンガポール当局は近年、就労ビザ保持者の最低給与額を引き上げるなど、移民政策を引き締めている。そのため雇用コストは上昇しており、企業は表に出ない業務を担当するスタッフを近隣のマレーシアのような低コストの国に配置することを検討するようになっている。賃貸契約更新に関する交渉に詳しい人物によると、一部銀行はオフィススペースの賃料を値下げするよう家主に求める戦術としてマレーシアへの移転をちらつかせている。
加えて、シンガポール北東部でJTCが手がける50ヘクタールのビジネスパーク、プンゴル・デジタル・ディストリクト(PDD)が年内に順次オープンする予定で、新たな供給が市場をさらに圧迫しそうだ。チャンギの物件のマーケティングに携わるある人物は、この状況をすでに瀕死(ひんし)の患者を殺すようなものだと表現した。