第三十六回 石川雅規が語る青木宣親「担当の人が“青木さんの頭の熱さは異常だ”って言うんです」/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
今年でプロ23年目を迎えたヤクルトの石川雅規。44歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。今季まで積み上げた白星は186。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。 【選手データ】青木宣親 プロフィール・通算成績
引退表明後、「目の奥が優しくなった」青木宣親
球界最年長の石川雅規にとって、今年も寂しい季節がやってきた。長年、チームメイトとして苦楽を共にしてきた青木宣親が、21年にわたる現役生活に別れを告げた。 「僕が二軍で調整をしていたときに、ノリから電話がかかってきました。この時点ですぐに何か気持ちの悪いものを感じました。電話に出ると、“石川さん、今年限りで辞めます”って言われました。その後も、“もう一度考え直して、もうちょっと頑張ろうぜ”みたいな話はしていたんですけど……」 電話でのやりとりはしたものの、なかなか面と向かって話す機会は訪れなかった。ようやく対面が実現したのは、10月2日、青木宣親引退試合の直前のことだった。 「直接、話ができたのは引退試合の3日ぐらい前のことでした。これまでのノリは1本のヒットにかける思いがとても強い男でした。でも、このとき会った彼は表情が一変していました。目の奥がものすごく優しくなっていたんです。これまで、引退する選手をたくさん見てきたけど、あそこまで変わるケースは初めてでした」 10月2日、盟友の引退に花を添えるように石川の登板も決まった。 「もちろん、僕自身も望んでいたことだったんですけど、首脳陣の方に“行けるか?”と聞かれたので、“もちろん、投げます”と答えました。ノリからも、“僕の引退試合に投げてください”と言われていましたから。僕がマウンドに立つ。その後ろで、センターにノリがいる。やっぱり、同じ空間を一緒に味わいたかったんです」 試合中、ベンチから、ブルペンから、何度もセンターを守る青木の姿を見ていたという。その胸の内に去来していたのは、「これが最後なのか……」という思いだった。そして、ついに石川の出番が訪れる。7回途中、3番手で神宮球場のマウンドに上がった。 「気持ちとしては、“これで最後なのか……”という思いでした。やっぱり、寂しかったですよ。この回を終えてベンチに戻るとき、まず思っていたのは、“きちんとグラウンドで感謝の思いを伝えたい”ということでした。だから、マウンド付近でノリが戻ってくるのを待っていました。あの空間は僕とノリだけのものにしたい。誰にも譲りたくない。そんな気持ちでした」