第三十六回 石川雅規が語る青木宣親「担当の人が“青木さんの頭の熱さは異常だ”って言うんです」/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
自分を信じて、常に歩みを止めない男
事前に青木は「僕、センターからマウンドに向かいますから」と伝えていた。それに対して石川は「いやいや、オレがセンターに行くよ」と答えたという。 「そうしたら、ノリが“いやいや、それはおかしいでしょ”って笑うので、“それもそうだね”って、2人でキャッキャ笑っていたんです。だから、ノリがマウンドに来るのを待っていました。そして、“今までありがとう”と伝えると、“いやいや、石川さん、こちらこそありがとうございました”と言われて、“まだまだ頑張ってください、絶対に辞めたらダメですよ”と言われました。僕が労わなければいけないのに、逆に励まされてしまいましたね」 それは1分に満たない一瞬の出来事だった。しかし、この瞬間は二人にとって一生忘れられない濃密な時間となった。改めて、「石川から見た青木宣親」について問うと、彼は「自分を信じる力」という言葉を口にした。 「ノリのすごいところは、現状に満足しないことなんです。例えば3安打した次の日でも、平気でバッティングフォームを変えるんです。“こうすればもっと打てそうな気がする”という思いで、臨機応変にいろいろなことにトライする。そして、そこに迷いがない。アメリカに行く前からポジティブだったけど、スワローズ復帰後はさらにポジティブになっていました。自分を信じる力がハンパないんです」 さらに石川は、「歩みを止めない男」と青木を評した。 「自分を信じる力がすごいから、“これがよさそうだ”と思えば、平気でそれまでのやり方を変えることができる。どれだけ打っても満足しない。決して歩みを止めない。歩みを止めない男、それが青木宣親という男ですね」 石川が語る青木の姿は、まるで石川自身のようだった。青木同様、石川もまた「どうすればもっとうまくなるだろう」と、歩みを止めず、貪欲に技術向上を目指している。その点を指摘すると、本人もまた同意する。 「そうですね。今、話しながら思ったけど、僕にもそういう面はありますね。でも、僕はノリほど、自分を信じられない。もちろん、自分で自分を信じるんだけど、すぐに裏切られてへこんでしまう(苦笑)。これからはノリを見習って、もっと自分を信じたい。改めて、そんな気がしましたね。何しろ、彼は一つのことに取り組みながら、常に別のことを考えていますからね」