第三十六回 石川雅規が語る青木宣親「担当の人が“青木さんの頭の熱さは異常だ”って言うんです」/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
いつか来る「その日」まで、全力で駆け抜けたい
そこまで語ると、石川がとっておきのエピソードを披露してくれた。 「そうそう、僕とノリは美容室が一緒なんですよ。あるとき、シャンプーしてもらっていたら、担当の人が、“青木さんの頭の熱さは異常だ”って言うんです。これは僕の想像ですけど、人間の脳って、いちばん身体の中で酸素を使うって言うじゃないですか。頭が熱いということは、ノリの脳は常にフル回転しているからだと思うんです。僕の頭が熱いときは、シンプルに体調不良のときだけですけど(笑)」 どんなことでも、自らの教訓とする石川は、「だからノリのようにもっともっと野球のことを考えたい」と笑った。そう、石川はまた来シーズンもユニフォームを着る。引退によって「目の奥が優しくなった」青木とは対照的に、24年目のシーズンを見据えた石川の目は、まだまだ厳しさを失ってはいない。 「球団と話し合いをする機会をいただいて、“まだまだ戦力として考えている”と言っていただき、来年も現役を続けることを決めました。正直、今年は1勝しかしていないし、わずか9試合の登板で、10試合にも達していません。それでも、野球への情熱、現役への情熱は薄れていないし、チームからも戦力として見てもらえるのならば、“もっともっと野球をやりたい”という気持ちがさらに強くなりました」 これまで石川は、「年齢や実績だけで飯が食える世界じゃない」と、何度も口にしてきた。だからこそ、球団から必要とされ、そして本人の情熱が失われていない限りは、ユニフォームを脱ぐ理由は見当たらない。しかし、石川は意外な言葉を口にした。 「小さい頃からずっと野球を続けているけれど、辞める勇気がないから続けて来られたのかもしれないですね。もちろん、だからといってずっと続けられるような甘い世界ではないし、独りよがりで続けていける世界ではないですけど……。でもね、“辞める勇気がない”には、“野球が大好きだ”という思いや、“もっとうまくなりたい”という思いも含まれていると思うんです」 そして、石川はこんな言葉を続けた。 「いつか必ずユニフォームを脱ぐときがくる。だから、それまでは全力で駆け抜けたい。今は、そんな思いですね」 盟友・青木宣親がユニフォームを脱いだ。また一人、心を許せる仲間が去っていく。胸に去来する切ない思い。それでも石川は前を向く。真っ直ぐ、前を見据えて、来るべき2025年シーズンに向けて、歩みを止めない男はさらなる一歩を踏み出すのだ――。 (第三十七回に続く) 写真=BBM
週刊ベースボール