「ワンバウンドOK」の一塁送球は適切か? 中学・高校で強肩になる“クイック解釈”
野球スキルコーチ・菊池タクトさんが指導するチームは「ワンバウンド送球禁止」
内野手の一塁送球は「ワンバウンドでOK」とよく言われるが、それが子どもたちの可能性の芽を摘むような言葉がけになっていないだろうか。Full-Countでは少年野球の現場をよく知る専門家に、“投動作”指導の注意点や練習法について取材。野球スキルコーチの菊池タクトさんは、「悪送球をしないためにワンバウンドを優先するのではなく、子どものうちは全身で投げるということを身に付けてほしい」と力説する。 【動画】肘が“自然に前に出る”フォーム矯正へ 胸主導の投球動作が身に付く専門家推奨ドリル 菊池さんは、栃木県那須町で「ティーアカデミー」を事業展開。中学軟式クラブチーム「那須ハイヒート」と、小学部「ハイヒートルーキーズ」をそれぞれ指導している。チームには、基本的に「ワンバウンド送球をしない」という決まり事がある。 「体勢が悪い状態であれば仕方ないですが、強烈な打球を正面で捕って、まだ打者走者が塁間の半分もいっていない状況でのワンバウンド送球は禁止にしています。まずはステップの数を増やしてもいいので、一塁までノーバウンドで強い球を投げる。送球が一塁手の上に行って悪送球になっても、それはスキル不足なので、またそこから練習しようと思えたらいいと割り切っています」 菊池さんは米国にコーチ留学へ行った際、日米のスローイングの意識の違いに驚かされた。日本では少年期からクイックスローを要求されることが多いが、米国ではステップ、テークバックと、体全体を大きく使って投げる野手の姿が見てとれた。 「米国では、クイックスローはいろいろなスローイングの中の1つに過ぎません。普段はテークバックをしっかりとってフルスロー(全身を使ってのスローイング)をしているので、いざ野手から投手でマウンドに立った時も、同じように投げることができます」
日米で異なる「捕ってから早く」の解釈
「捕ってから早く」の解釈も、日米で異なるという。捕ってからボールを手放すまでを早くするという考え方ではなく、グラブから利き手にボールを握り替えるまでを早くすることが大切だ。あとは打者走者をしっかりと目視しながらステップを踏み、フルスローする。 「米国の“クイック”は、握り替えまでを早くするということ。投げる方の手でボールを持つ時間が長ければ長いほど、スローイングは安定するし、強く投げられるという考え方です」 メジャーのスカウトらが一堂に集結し、同じ条件下で選手をチェックするショーケースやトライアウトなどでは、試合前のシートノックから一塁送球をスピードガンで測る関係者もいる。そこでワンバウンド送球をしても、強肩をアピールすることはできない。普段から全身を使って投げていることが、大事な場面で人生を左右する。 「中学や高校で“スローイングが弱い”選手は、そういった取り組みの差があると感じています。最初は、捕ってすぐに握り替えて、余裕を持ってステップを踏むというリズムは、内野手からすると恐怖心はあります。ただ、とにかく早くボールを手放して、一塁までワンバウンドにして、悪送球をしなければいいや、というマインドを少しずつ崩しながらやっています」 まずは正確性を求めるよりも、個性を磨いてあげる方が、将来的に選手のためになる。菊池さんは今月16日から開催される「投球指導week」に出演予定。米国仕込みのスローイング法を惜しみなく披露する。
内田勝治 / Katsuharu Uchida