「普通ではないことは可能性。世界80億人の『異彩』が自信を持って放たれる世界を目指すことが、私たちのミッション」【HERALBONYインタビュー】
緻密に書き込まれたデザイン、鮮やで大胆な色使い、プリミティブで自由な感性が魅力の「HERALBONY」。知的障害がある作家=異彩作家たちが生み出したアートをもとに、様々なプロダクトや企業とのコラボレーションで目にすることが増えたブランドです。この秋には、パリで開催された「LVMH イノベーションアワード2024」で日本企業として初受賞(ダイバーシティ&インクルージョン部門)し、パリに子会社を設立。パリ・ファッションウィークでの海外展示会を成功させるなど、世界的な注目も集めています。 【写真】その力強さに心奪われる「ヘラルボニー」のアートを、スカーフやバッグで日常の中に… その始まりは、岩手県に生まれ育った双子の兄弟、松田祟弥(たかや)さん、文登(ふみと)さんが立ち上げた小さな会社。社名の由来は、重度の知的障害を伴う自閉症がある彼らの兄・翔太さんが、幼い頃に自由帳に書いていた、意味のわからない謎の言葉です。でも意味がないからこそ、新しい価値を創造することができるのかもしれません。 ヘラルボニーに入社して1年、同社で初めての車椅子社員、海野優子さんもまた、日々それを実感しているようです。さて彼らが創造する「新しい価値」とはどんなものなのでしょうか。 ****** ヘラルボニーのブランドコミュニケーションチームのマネージャーとして働く海野優子さん。34歳で原発不明の後腹膜悪性腫瘍を発症、奇跡的に回復したものの左下肢に後遺症が残り、現在は車椅子で生活しています。 「本当に生き死にの問題だったので、障害を悲しんでいる余裕はなかったです。車椅子であっても『生きていてよかった』のほうがずっと大きくて。逆に自分にとっては、それが武器にできているようにも思います。もしこういう私でなかったら、前職で障害者雇用のチームで働くことも、ヘラルボニーに入ることもなかったと思うし、今こうしてインタビューを受けることもなかったと思いますから」 ヘラルボニーへの転職は、職場復帰から4年後のこと。前職で「障害者雇用チーム」として、障害のあるメンバーのマネジメントを担当した経験が大きかったと言います。 「病気になる前にいた部署に復帰したんですが、ものすごく辛かったんですよ。障害がある人と障害がない人が一緒に働くことの難しさを痛感しました。でも車椅子の自分にしかできないことがあるとも思ったんです。異動した障害者雇用の部署で様々なことを学んだし、自分の成長も肌で感じられました。それで、もしかしてこの分野って組織や人間に成長を与えるヒントがものすごくたくさん詰まった、すごく面白い分野なんじゃないかなと。それがヘラルボニーに入ったきっかけです。同じような面白みを感じてくれる人が増えていったらいいな、それを目指そうと思いました」 ヘラルボニーで初めての車椅子社員となった海野さん。同時期に聴覚障害のメンバーが入社しましたが、会議には当たり前のように手話通訳がついていたそうです。「期待感はありましたが、実際にそうだったことに、ヘラルボニーで良かったという、誇りようなものを感じたんです」 車椅子用のスロープがない岩手の本社を訪れた際は、前日から社員たちがスロープを設置してくれていたことも教えてくれました。ヘラルボニーが、あえて「障がい者」でなく「障害者」、「障害を持つ人」でなく「障害がある人」という言葉を使うのは、「障害があるのは、個人でなく社会の方」というスタンスだから。障害を解決するのは個人でなく社会の責任であることを、あらためて考えさせられます。 「障害って、その種類によって状況が全く違うんですよね。私は前職で聴覚障害と精神障害がある方と働いていたんですが、知的障害について何も知りませんでした。だからこそ最初に接する怖さみたいなものはあったんですが、実際に接してみるとそれは先入観だったなと。 作家さんたちは私が思っていた知的障害のイメージと全く違って、一緒にいると笑いが起こる瞬間、笑顔になる瞬間がすごく多いんです。最近では、弊社が主催する国際的なアワード「HERALBONY Art Prize」の表彰式が楽しかったですね。代表の松田祟弥が挨拶している舞台上に、作家さんが突然上がってきて、マイクを向けられたら「終わりです!」と勝手に締めの挨拶をしちゃって。すごく盛り上がりました。 取材などで施設に伺うことがあるんですが、部屋に入った瞬間に皆が話しかけてくれたり、自分の作品を見せに来てくれたり。そういうフラットでまっすぐな行動をためらってしまう人も多いと思うのですが、作家さんたちはそういうコミュニケーションができる。だからヘラルボニーの社員は、作家さんたちが大好きな人ばっかりなんですよ」 決めた形どおりに行動すること。気持ちをストレートに表現すること。相手を見て行動を変えること。それが当たり前の世界に縛られている私たちは、だからこそ、そこからはみ出した作家さんたちの自由さに惹かれるのかもしれません。