なぜ22歳の一山麻緒は国内最高記録を更新して最後の東京五輪切符を手にできたのか…背景に福士加代子の”財産”
アルバカーキでは45km走を3回こなすなど、ハードな練習を続けてきた。さらにターニングポイントとなったのが5km×8本というメニューだ。 「ペースメーカーがいなくなる30kmでレースは動きますから、後半にペースを一気に切り替えられるような練習です。高地で行ったのでタイムは良くありませんが、平地でいうと16分ちょっとの負荷をかけられたと思います」(永山監督) ワコールは福士加代子という存在が大きく、彼女がこなしてきたメニューや世界大会での経験がチームの財産になっている。 「福士君で13回マラソンをやってきて、失敗も成功もありました。福士君がチームを牽引してくれたことが一山の結果につながったと思っています」(永山監督) 今回、福士は30kmで途中棄権となったが、4度のオリンピックに出場して、2013年のモスクワ世界選手権の女子マラソンでは銅メダルを獲得した偉大な先輩が残したレガシーは後輩たちに引き継がれている。 「ジョグ感覚は言い過ぎですけど、30kmまではゆとりを持って走ることができました。それに30kmからが勝負と思っていたのでワクワクした気持ちでしたね。スタートからゴールまでイメージ通りでした」と一山。鬼練習の成果が名古屋で花開いた。足底に不安があったため、ナイキの超厚底シューズ(エア ズーム アルファフライ ネクスト%)を着用。その威力も一山の爆発力を引き出したといえるだろう。 昨年10月のシカゴではブリジット・コスゲイ(ケニア)が従来の女子世界記録を一気に1分21秒も塗り替える2時間14分04秒を叩き出すなど、女子もナイキの厚底シューズを履いた選手たちによって好記録が続出している。 正直、世界との差は小さくないが、永山監督は、「もちろん一番光り輝くメダルを狙いたい。練習メニューは鬼と言われようと、やるしかないと思っています。日本陸上界の悲願に届くように自分自身もスキルアップしないといけません」と世界と戦う覚悟はできている。 一山も「世界で戦うにはまだまだ記録が劣っているので、オリンピックに向けてはもう一段階質の高い練習をして、日本代表としてカッコいい走りができたらいいなと思っています」と話す。22歳という若さ、1年前の東京から4分以上もタイムを短縮した成長率、恵まれたチーム環境。雨の五輪最終トライアルで”一発逆転”の快走を見せた一山麻緒には、日本マラソン界を大きく動かす可能性が秘められている。 (文責・酒井政人/スポーツライター)