ヤンマガ史上最速でヒット『ねずみの初恋』作者は「読者をどん底に突き落としたい」。殺し屋少女のピュアで残酷な恋物語はどんな結末を迎えるのか?【大瀬戸陸インタビュー】
精神を狂わせるような展開で「読者をどん底に突き落としたい」
――本作の話ももっと聞きたいのですが、まずは作画の変化について。『影霧街』の頃と比べるとさらに進化しているように思えます。 大瀬戸:これも『影霧街』のときに遡りますが、どこかのタイミングでベッドを変えたからか睡眠の質が上がって、特に体調が良いときがありました(笑)。そこで集中して丁寧に原稿を描いたら、編集者さんからも「上手い」と反応してもらえたんです。 それまではほぼ一発で描いていたので「ちゃんとがんばればアウトプットに変化が出るんだ」と分かって。話だけじゃなく絵にももっと力を入れようと、締切のギリギリまで描き直したり、見せ方を工夫したりと粘るようになりました。『ねずみの初恋』に差し掛かる頃には『ベルセルク』(白泉社)の模写もしていたと思います。 ――ねずみちゃんのかわいらしさも印象的です。 大瀬戸:女の子がかわいかったら見てくれる人が一定数いるだろう、と。だとしたらそこは絶対に逃したくないと思っていました。あお君もかわいくてかっこいい。美男美女ですよね。 ――2人のやりとりでいうと、ねずみちゃんが「エッチ」の意味をキスだと思っていたピュアなシーンに惹きつけられました。この設定はどのように思いついたのでしょうか。
大瀬戸:周囲で見聞きしたことがヒントになっています。僕の友達に、何年間も付き合っているカップルがいるんですが、週に何回かドライブに行ったり散歩をしたりはしているものの、手を繋ぐ以上のスキンシップはない。聞いたとき、僕はその関係がすごく良いなと思ったんです。 2人はその関係でも十分楽しくて幸せだし、自分たちなりの未来もちゃんと考えている。そういうピュアな日々もひとつの愛のかたちだなと心を打たれて。だから、汚い世界の中でもねずみちゃんとあお君はピュアで、キラキラしていてほしいという願いも込めて、このシーンを作りました。 ――そんなピュアな2人だからこそ、幸せになってほしいと願う読者が多いと思います。今後の展開として言えることがあればぜひ教えてください。 大瀬戸:この記事が出ている頃、連載は第1章が終わって、2章が始まっています。ストーリー的には3章までと考えているのですが、終わり方も完全には決まっていません。2人がどうなってしまうのかはまだ迷っているので、これから描かれる2人の人間性……いや、ねずみちゃんかあお君どちらかの人間性によって決まっていくと思います。 ひとつ言えるのは、「このストーリーが来たら、こうなるよね」といった想定できる、ありがちな流れにはしないということ。エンタメ的なドキドキよりも、みなさんの精神を狂わせてしまうくらいのドキドキを終盤まで描きたい。ちゃんと毎回メンタルをすり減らしながら読んでほしいです(笑)。 そういう意図もあって、ねずみちゃんとあお君のかわいらしさや恋愛のシーンでみなさんの感情を上げるだけ上げて、いつかどん底に突き落としたい。日本中をどん底に突き落とす気持ちでいるので、そのためにも今は多くの人に見てもらえるようにと思っています。 取材・文=ネゴト / 松本紋芽 取材=金沢俊吾