ヤンマガ史上最速でヒット『ねずみの初恋』作者は「読者をどん底に突き落としたい」。殺し屋少女のピュアで残酷な恋物語はどんな結末を迎えるのか?【大瀬戸陸インタビュー】
大瀬戸:普通だったらこの第4~6話の展開は1話分にまとめてしまうような内容のはず。でもリアリティを追求すると、これぐらいスローで地味な展開がしっくりくる。こういう変なシーンに話数を割けるのも、この漫画の良いところだと思っています。
小学校2年生、犬に噛まれて性格が変わった
――子どもの頃の話も聞かせてください。スプラッタ系の作品を好きになったきっかけが気になります。 大瀬戸:幼い頃は明るくて活発な少年だったんですが、入院を機に変わりました。小学2年生のときに遡りますが、友達と公園みたいなところで遊んでいると、大きな犬を飼っているおじいさんの家の敷地にボールが入ってしまって。 「僕が犬のおとりになるから、その間にボールを取ってきて」と友達に提案して、意気込んで駆け出した瞬間にそのまま僕はこけてしまったんです(笑)。犬に噛まれて血が出て、飼い主のおじいさんがすぐに僕を助けてくれたんですが、入院することになり……。暇だったので、ホラー作家の平山夢明さん、花村萬月さんの小説や、江戸川乱歩など、他にも暗い純文学をたくさん読んでいました。 ――小2にしてはかなり難しいラインナップですね……! 大瀬戸:もちろん理解できていない部分が多いんですけど、なんとなく、このまま普通に退院したら格好悪いだろうなと思って(笑)。いわゆる中二病ですよね。周りの人が読まないものを吸収して、レベルアップして退院しようとしていたんです。そうしたら、かなり世界観が強まったというか。友達からしたら「犬に噛まれて入院したら変になった」ように映っていたかもしれません。 ――絵を描くようになったのもその頃からですか? 大瀬戸:そうですね。その頃、上級生たちとも遊んで、悪ふざけをする日々を送っていました。ある日、急に自分のしてきたことに対する罪悪感に耐えられなくなって家族に泣きながら打ち明けたんです。そこから3カ月くらいは、学校が終わったらすぐ家に帰り、軽い自宅謹慎みたいになっていました。 やることがないから、家にある紙とペンを使って怖い絵を描いては、自分で見て楽しんで。少ししたら「これを物語にしたらどうなるんだろう」と、漫画という概念がないまま描いていったのが始まりだったと思います。でもいざ漫画家になってたくさん描いてみたら、そういう作品を純粋に見ていた小中学生のときほどは楽しくないかもしれません。体のどこかを切られたり、傷が広がったりするようなところって複雑だから、描くのが面倒なんですよね(笑)。 ――描き手になるとそういう視点になるんですね。中学生の頃までは他に、どんなものを見ていたのでしょうか? 大瀬戸:親もスプラッタ系の作品が好きだったので、父とはビデオショップで借りたホラー、ハードボイルド系の映像作品を見ていました。『食人族』『ムカデ人間』とか、本当に色々です。その姿を白い目で見ていた母親は、小説のグロい系を勧めてくるという(笑)。当時の環境は今の自分に影響していると思います。 ――先生の作品はお父様、お母様も見られているのかもしれませんね。 大瀬戸:母は「恥ずかしくて見られない」と言っていました。父は『影霧街』のときですが、母から聞いた話によると見ていたようですね。第1巻で、主人公がタバコを耳に入れられるシーンがあるんですが、そこを見て「あいつはやっぱり俺の息子だな。これは分かっている」と評価していたらしいです。