廃棄漁網をバッグやパリコレ衣装にリサイクル…企業の取り組み広がる
海洋ゴミ削減へ企業取り組み
海洋プラスチックゴミが問題となる中、廃棄される漁網を日用品などに生まれ変わらせる取り組みが広がっている。見た目や機能性など商品の魅力を高めて「売れる」商品を作ることが、ゴミ削減と事業継続の鍵となっている。 「魚種や漁法によって漁網の素材は様々。織り方や合わせる素材の差で色んな風合いの生地になります」 廃棄漁網をリサイクルした生地の活用を企業に働きかける、一般社団法人「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」(東京)代表理事の野村浩一さんは、そう説明する。アパレル会社など約80社と協業して、北海道などで集めた漁網を原料に、バッグや帽子などを製造。共通のロゴマークをつけて販売し、売り上げの一部を海藻が茂る「藻場」の再生活動に充てている。 2020年の活動開始時は、商品開発に慎重な企業が多かったが、近年は状況が変化。「社会全体の環境意識が高まる中、商品開発を希望する企業も増えてきた。購入量が増えれば、廃棄漁網のいっそうの削減につながる」と意気込む。
旅行用品ブランド「アウ」を運営する「ムーブド」(東京)は、参加企業の一つだ。今年7月、海を想起させる水色が爽やかな旅行用圧縮バッグ(3180円~)やスーツケースカバー(7990円~)などを発売した。
働く女性向けのバッグを手がける「フミコダ」(東京)は同月から、本体部分に漁網のリサイクル生地、持ち手に放置竹林の竹が原材料の人工皮革を用いたハンドバッグ「ミーガン」(4万4000円)を販売している。生産が追いつかないほどの人気ぶりで、社長の幸田フミさんは「見た目や使い心地はもちろんだが、どのように作られたか、という背景のストーリーにも共感してもらえている」と説明する。
◇ 水産会社「天洋丸」(長崎)は煮干しの原料となるカタクチイワシ漁で使った漁網で「網エコたわし」を作った。「泡立ちがよく、汚れ落ちがすごい」「乾きやすく清潔」などと評判。今年の売り上げは2万個に届きそうだという。 日本のファッションブランド「アンリアレイジ」は、9~10月に仏パリで開催された2025年春夏パリコレクションで、廃漁網から作った糸を採用した服を発表した。糸は「モリトアパレル」(東京)が開発した「ミューロン」で、日本国内で回収した廃漁網だけで作られているという。 環境省によると、22年度に回収した国内の漂着ゴミは計約5万4000トン。また、全国78地点で調べた人工物のゴミの上位10種(個数)はプラスチックで、「漁網」「プラ製ロープ・ひも」などの漁具が4割を超える。 漁網は重くてかさばる上、塩分が含まれていて焼却に適さないため、処理に手間がかかるという。流出すると、海洋生物に影響を及ぼしたり、マイクロプラスチックとして人体に取り込まれたりする恐れもある。 日本財団常務理事の海野光行さんは「全ての人に海のゴミ問題を『自分事』にしてもらうために、身近な日用品などから海とのつながりを感じてもらう取り組みは意義がある」と話している。(読売新聞生活部 山田朋代)