【漫画家に聞く】親友と離れ心を閉ざした転校生、新しい友達ができた理由 「特別」について考えさせられるSNS漫画
インターネットの外側には、より大きな現実世界が広がっている。漫画『かえちゃんの新しい友達』は主人公の気難しい女子学生が、友人との出会いと新たな視野の発見で自分の小さなこだわりから解放される成長物語。みずみずしさ、青春の機微が26ページに凝縮された秀作である。 「特別」について考えさせられる漫画『かえちゃんの新しい友達』 作者は29歳で本格的に漫画を描き始めた、かわじろうさん(@cawajirooo)。数々の短編を手掛けてきた彼が本作に込めた想いとは。手ほどきを受けた漫画学校「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」についても含めて話を聞いた。(小池直也) ――まず、かわじろうさんは漫画学校「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」の卒業生とのことですが、それについても教えてください。 かわじろう:教室には2年在籍しました。絵の描き方というよりも作品の組み立て方や、漫画家としての活動をどう作っていけばいいのかを教わりました。今はそこで学んだことをベースに漫画を描いています。 一番印象的だったのは「すごいものを描こうとして描き終えないよりも、とにかく完成させることの方が大事」という考え方でした。これまでは、完璧な漫画を描くんだと意気込むばかりで何も描けずにいたのですが、とりあえず描いてみたら作品が描けたんですよ。締切を作って短いページでもいいから描くことが大事だと学びました。 ――では『かえちゃんの新しい友達』をXに投稿した反響はいかがですか? かわじろう:Xに投稿してから、色々な方から感想や反応をいただけて、とてもありがたいです。僕の作品を初めて読んでくださった方もいますし、『平和の国の島崎へ』の原作者・濱田轟天さんや、芸人の吉川きっちょむさんがX上で感想をくださったりしました。 ――制作の経緯は? かわじろう:紙の本が好きなので、本屋さんを舞台にした作品を描きたいと思いました。また、女の子ふたりが登場する別作品『ミニチュアとベンチ』がSNSで好評で嬉しかったので、今回も友情をテーマにして新作を作りたいと思ったんです。自分自身も人見知りなタイプなのですが、それを誇張した性格の“閉じた”主人公がどう他人と繋がりを持って、友達を作るかを描いたらいいかなと。 ――物語の鍵となる本「マルメロ物語」はモデルなどがあったり? かわじろう:特にはありません。実は当初、好きな本が共通している二人が出会って、友達になる話を描こうと思っていたんです。でもそれだと捻りがない、ということで「むしろ好きな本を知らない人と友達になる話がよいのでは?」と編集さんからアドバイスをもらって今の形になりました。 自分も以前は特定の作品を知らない人を、一方的にジャッジするような一面もあった気がするんです。でも今は「好きなものを大切にしつつ、色々な人とコミュニケーションを取った方がいいな」と考えていて。 それを象徴するのが架空の本「マルメロ物語」なんです。60~70年代の少女漫画のタイトルをあれこれ見ながら、リアリティのありそうなタイトルを付けました。詳しい人からすると違うと言われるかもしれませんが(笑)。 ――今の分断されがちなSNS社会に寛容さが必要、というメッセージにも見えました。 かわじろう:それを世の中に強く発信しようとは意図していませんでした。でも確かに自分の見たいものだけ見たり、違う意見の人を受け入れられない雰囲気は感じます。それに対する、もう少しポジティブな見方を描けたらいいなとは思っているかもしれません。 ――他に漫画を描く上で意識されていることは? かわじろう:漫画は言葉と絵で表現できる媒体なので、それを効果的に組み合わせることは意識しています。例えば、自分の好きな本が何万冊のなかの1冊に過ぎないことに気付く場面なら、たくさんの本が背景に描かれていた方が説得力があるし、終盤のモノローグは光が差す演出が一緒になっていた方が主人公の前向きに変化した気持ちを伝えられると思うんですね。だから何かをどんな雰囲気で、どれだけの量を描くかは言葉とのセットで判断します。 正確に言うと、絵でも言葉でもない「伝えたいイメージ」があって、それを言葉に翻訳する部分と絵に翻訳する部分がある感じ。でも自分の絵柄で表現できることは限られているので、それをどの配分で表現するかは場面によって考えてます。 ――影響を受けた作家は? かわじろう:子どもの頃から親の影響で、手塚治虫さんや藤子・F・不二雄さん、水木しげるさんなど昭和の作家の作品を読んでいました。現代の作品だと松本大洋さんの白黒のバランス感が好きです。 ――今後の展望についても教えてください。 かわじろう:どの作品も似た主人公が多いので、もう少し多様なキャラクターを描けるようになれたら嬉しいですね。今後は長尺の作品にも挑戦して、いつかは連載もできれば。何度も本棚から取って読んでもらえるような作品を描いていければと思っています。
小池直也