加速する介護事業者の「倒産」、過去最悪のペースへ…「“利用者さんのため”に、事業拡大はしない」が招く本末転倒
事業規模の拡大と効率化
経費には、売上に関わらず一定額が発生する費用、すなわち固定費があります。例えば、事業規模が5で固定費が4のものが、事業規模が倍の10になった場合に、固定費も倍の8になると仮定しても、利益は1から2に上がっています。つまり、利益総額が大きくなっている。 そして実際には、事業規模が倍になった際に固定費も倍になるかと言えば、そうでもありません。例えば家賃のように、金額が変わらない固定費も多々あるので、事業規模が大きくなればなるほど全体に占める固定費の割合は減っていき、その分、利益率が上がっていきます。 利益率が上がると収益率も上がっていくので、結果的に効率化が図られて潰れにくくなる。これがスケールメリットであり、場合によっては、収益の一部を賃金に回せるので、事業規模が大きくなると賃金も上がり、人材確保にもつながります。 そのため、できる限り事業規模を大きくして収益率を上げ、効率的に経営できるような努力を、一個一個の事業者がするべきだと思っています。
事業拡大を阻む「本末転倒の思考」
事業者が倒産を回避するために努力できることとして事業規模の拡大があるにせよ、その際の障壁は、それに対して心理的抵抗を抱く介護経営者が少なからずいることです。 その思考パターンとしては、「私たちは小規模のままで行く。なぜなら、私たちは利用者さんのことを思っているからだ。金儲けのために介護事業を始めたわけではないから、事業を拡大しない」というように、もっぱら決まっています。 確かに事業を拡大すれば、利益を人件費に分配できることも多くなり、収益は上がりやすくなりますが、それに対する拒絶感で、小規模のままでいることを選ぶ経営者がいます。 そして、規模が小さければ小さいほど、事業所の代表は一スタッフでもあり、入浴介護もすれば調理もし、洗濯や送迎もする。これに対して、規模が大きくなればなるほど、経営という役割が生まれるので、利用者さんと向き合う時間はなくなります。 「利用者さんと向き合い続けたいから、事業を拡大しない」というのは、その通りではありますが、その思い自体が事業規模の拡大を阻害し、結果として、単価削減等で倒産に至っているという構造があります。 けれど倒産すれば、利用者の方々と向き合うことすらできなくなります。その場合、利用者さんも路頭に迷うわけであり、その責任をどう担うのか。もちろん、利用者の方々は他事業所に移ることになるとは思いますが、利用者さんにとって環境が変わるというのは大変なことです。 とりわけ、精神障害をお持ちの方や認知症の方は、バランスを崩して入院するケースも出てくるはずです。他の受け皿に渡せばいいという単純な話ではないので、持続的に社会貢献できる環境を作るためにも、しっかりと先まで読んで、事業規模を拡大する努力をしたほうがいいのではないでしょうか。