加速する介護事業者の「倒産」、過去最悪のペースへ…「“利用者さんのため”に、事業拡大はしない」が招く本末転倒
今後も「中小零細事業者ほど経営が苦しい状況」は続く
加速する倒産ですが、その多くを占めるのが中小零細事業者で、大規模事業者では滞りなく経営ができています。つまり、介護業界全体で優勝劣敗が起きていて、事業を拡大したところは経営がうまくいき、小規模なままでいる事業所は経営がうまくいっていないという二極化が働いています。 報酬改定で多少単価が下がったとしても大規模事業者はそこまで影響は受けませんが、中小零細事業者は相当なダメージを受け、倒産が加速している。この状況は今後も続くと想定されます。 というのも、これが国の方針であると思われるからです。超高齢化社会の中では、サービスを受ける人は増え続ける一方、それに投下される予算全体のパイは変わらない。これが報酬単価削減の理由でもありますが、介護人材不足への対応や、安定的なサービス提供に向けて、それ以上に効率化を図るには、中小零細事業所を大規模事業者に統合することが考えられます。 実際、「事業者の経営の協働化・大規模化」についてはこれまでにも取り沙汰されており、生命保険大手の日本生命が、介護業界最大手のニチイホールディングス(HD)を買収するなど、M&Aも活発化しています。こうした流れを見ても、中小零細事業者の苦節は続くと思われます。
中小零細事業者は地域介護の要…生き残らなければならない
国の方針が事業者の大規模化にあるとしても、中小零細事業者は介護業界において非常に大切な役割を担っています。各地域の福祉が、大規模事業者と中小零細事業者の連携で成り立っているなかで、地域の隅々まで、良質なサービスを届けられるのは中小零細事業者がいるからに他なりません。 生き残りをかけて、中小零細事業の経営者が今後どうすべきかについては、主に以下の2点が考えられます。 (1)介護現場の実態を伝える まずは厚労省や財務省に、適切な介護福祉分野の評価をしてもらうために、現場の実態・実状をしっかりと伝えていくことが挙げられます。一企業としてもそうですし、団体を通じて声を上げ、単価を維持してもらうような運動をしていくことが必要です。 やはり国は、下からの声をさまざまな角度から聴きながら最終的に報酬単価等を判断するので、声を上げなければ“ない”ことにされてしまう。中小零細事業者は、自分たちが経営できるような単価設定をしてもらえるよう声を上げる、つまり運動を展開するのが非常に大事ですし、その必要性があるとも思います。 その運動が一つの政治的な力になっていけば、経営しやすい環境が維持できると考えます。 (2)事業規模を拡大する 一方で、「いかに優れた部分最適も全体最適には勝てない」という経済学者・ドラッカーの言葉があるように、常にマネジメントは部分最適より全体最適を優先すべきだとの見方があります。 つまり、我々介護業界にとっては報酬単価が上がるほうがよいとしても、国全体としては、高齢者人口がさらに増えていくなかでこれ以上介護報酬を上げると立ちいかなくなるという意見もあり、どちらが正しいということではないと思うのです。 サービスを受ける人口が増え続け、かつ税収が増えない(もしくは減っていく)可能性がある以上、予算全体のパイが減るなかではどうしても国民一人ひとりに対しての割り当てを減らさざるを得ないわけで、報酬単価をできるだけ抑えながら効率的に事業を運営していくほうが全体最適にかなってはいます。 そうしたなかで現場サイドとしてできることは「いかに効率化を図るか」です。そのために必要なのが、事業規模の拡大です。