堂安律のシュートはGKの判断を一瞬迷わせる。「骨盤の回旋」の連動がもたらすキックの特徴とは?【動作分析コラム】
今季ここまでのブンデスリーガですでに4得点をあげている堂安律。その得点パターンはさまざまだが、彼の特徴は利き足の左足から繰り出される強烈なシュートにある。なかでも右サイドからのカットインで、ファーとニアどちらにも打ち抜ける形は堂安の得意分野で、そこにはある身体動作の特徴があるという。(文:三浦哲哉) 【写真】欧州日本人、高額年俸ランキング2024
●キック動作のキーポイントは「骨盤」の動き
2022年カタールワールドカップ(W杯)のグループステージ第2戦・スペイン代表戦でのゴールなど、右サイドからのカットインでニアサイドを撃ち抜く左脚の強烈なシュートは、堂安律の真骨頂の一つと言えるでしょう。 また、そのシュートを見て、「よくそこから腰を捻って強いボールを蹴れるな!」という感想を持たれる方は多いのではないでしょうか。 サッカーのキック動作では、スイングする蹴り足の筋力はもちろん重要ですが、全身の動きを上手く連動させることで、身体の重さを乗せてボールインパクトを強くする必要があります。その際、ちょうど身体の中心に位置する『骨盤』の動きはキーポイントとなります。 カットインから短い助走でニアサイドを狙うシーンでは、ファーサイドと比較して身体をより大きく捻る動きが要求されるため、技術的な難易度が高く、また強いボールを蹴るためにはフィジカル面の強さも必要不可欠となります。 このような局面でのキックで捻る力を生み出すためには、上半身の姿勢を保持しながら、腹~腰回り・下腹部と脚の筋群を協調させて、『骨盤の回旋(水平方向の捻り)と連動して蹴り足(股関節)を内側に振り抜く』動きが重要となります。堂安はこの能力が抜群に高いため、ニアサイドへの強いシュートが可能になるのです。 今年の6月11日に行われた、北中米W杯・アジア2次予選のシリア代表戦でのゴールを用いて解説していきます。
●GKの反応が一瞬遅れる。骨盤の回旋をうまく利用した蹴り方
右サイドでパスを受けた後、ドリブルで相手選手と間合いを詰め、グッと沈み込みながら右足でタタンッと連続でステップを踏んでタイミングを外しています。 2つ目の右足のステップから『沈むバネ』を使ってギュンと加速することで相手選手を外し、ワンステップで素早く軸足を踏み込んで『骨盤の回旋と連動して蹴り足を内側に振り抜く』ことで、ニアサイドに強烈なシュートを放っています。沈むバネとは、『上半身の重さを骨盤に乗せて重心を落とすことで生まれるバネ』のことを指し、トップレベルの選手ほどその質が高くなるため、鋭い方向転換からのスムーズな加速が可能になります。 キックのボールインパクトでは、上半身(へその向き)がゴールに対して垂直方向~ファーサイドに向いていますが、そこから蹴り足(左)と連動して骨盤の左側をグーッと前に押し出していくことで、身体がクルッと回転してニアサイドに蹴る形になります。 ゴールキーパーとしてはファーサイドを狙っているような体勢にも見えるので、一瞬反応が遅れることになります。フォロースルーでは軸足が地面から外れず、蹴り足はキレイに内側に振り抜かれて軸足に巻き付くような形でストンっと着地するフィニッシュになります。 軸足に着目すると、踏み込んだあとに骨盤の回旋と連動して股関節が伸展することで、上半身が前上方に移動する動きが出現します。『起こし回転』と呼ばれるこの動きがスムーズだと、蹴り足のスイングと捻りに加えて、身体の重さが前方に移動する動きもキックに参加させられるため、短い助走でもボールインパクトを強くすることが可能になります。 上半身は、テイクバック~ボールインパクトの局面では、腕の振りにリードされる形で胸郭を骨盤と反対方向に回旋することで捻る動きのサポートをしますが、このキックをするためにはもう一点、重要なポイントがあります。