一般道でフェラーリの限界走行をしてみたい! 無茶な注文の主とは?
「かなり先までの見通しがいい」という条件もクリア。加えて、このコーナーでは、過去2度、スピンを経験していた。 いずれも、「予期しない突然のスピン!」という危険なものではなく、意図し、計算したうえでのスピンだ。だから、自信もあった。 そのうえで、実験部の方々には、前方と後方から近づいてくるクルマのチェックをお願いした。トランシーバーでのやり取りで、安全確認を確実に確かめながら走るためだ。 1回目は、ちょっと速め。2回目はグリップ走行でのギリギリの速度。3回目は小さめと大きめのスライド。そして、最後の4回目はスピン、、の順で行った。 部長は、2回目のグリップ限界走行辺りまでは、さほどの緊張感もなく楽しんでいた。だが、3回目のリアスライドから、急に緊張感(あるいは恐怖感)が高くなった様子が感じられた。身体が硬くなっているのもわかったし、口数も極端に減った。
そして、4回目、、最後の課題である「スピン」にチャレンジすることに。 「じゃあ、スピン、行きますよ! 危ないことはありませんから、楽しんでください !」と、僕は笑顔で声をかけた。 「はい、楽しませていただきます」と返事は返ってきたが、緊張感はありありだった。いつもは威厳たっぷりの部長が、失礼ながら、可愛いい子供のように見えた。 スピードを上げ、スピンポイントに近づくにつれて緊張感はさらに高まったようで、身体は強張り、アシストグリップを握る手に強く力が入っているのがわかった。 スピンは何事もなくきれいに決まった。スピンポイントで見ていた実験部の人たちからは、笑顔と拍手が贈られた。 部長もすぐに緊張が解け、満面の笑顔になった。「いや~、フェラーリでのスピンって、もっと怖いものと思っていましたけど、今みたいな滑らかなスピンなら怖くないですね」
「それにしても、、フェラーリで、それも一般道で、スピンまで含む限界走行を体験できるなんて、、もう、最高にワクワクです。一生の思い出ができました!」、、と、恐縮してしまうほどの喜びと感謝の言葉をいただいた。 仕事柄、テストコースでのスピン体験は珍しくないはず。しかし、一般道で、しかもフェラーリでのスピン体験ともなると、やはり特別なものだったのだろう。 僕にとっても、、一般道でフェラーリをスピンさせる、、しかも、横にはその道のプロを乗せ、これまたプロの立会人が見守る前でのトライは、一生の大切な思い出になった。 これは40年前の話だが、当時はまだ、こうしたことが許される? 空気感があった。もちろん、基本的には許されないことだが、、。 いい悪いは別として、「今よりずっと自由な時代を過ごせたこと、幅広いチャレンジができたこと」を、ほんとうにハッピーだったと思っている。