一般道でフェラーリの限界走行をしてみたい! 無茶な注文の主とは?
たぶん、実験部のあり方やテストのあり方の現状に、「これでいいのだろうか?」といった、不安や危機感を感じていたのだろう。 当時は、日本車の性能が大きく飛躍しようとしていた時期であり、各メーカーが欧州車に挑戦しようとしていた時期でもあった。 そんな状況の中で、部長は、今までにない、「斬新で刺激的ななにか」を探し、自らの身体と感覚で感じとり掴むことで、次なるステップへ進むためのヒントを探り当てようとしているのかもしれない。そう感じたのだ。 試乗コースに選んだのは、交通量の少ない山岳ワインディングロード。コーナーも路面もほとんどすべて頭に入っているコースで、道幅は広め。路面の荒れも少ない。 実験部の方々と話をし、308を走らせるのには「ここがいいんじゃないか」と、意見の一致した場所だった。スピードも出せるし、コーナーの変化も多く、周りの景観もいい。
テストは2種類に分けて行った。ひとつは、コースを「ふつうにドライブ」するパターンで、もうひとつは「限界領域まで追い込む」パターン。 ちなみに、「ふつうにドライブする」パターンとはいっても、フェラーリの熱さはしっかり感じ取れる、、、そんな走りである。 つまり、一般常識から考えると、「そうとう速い!」。家族で、景色を眺めながらゆったりドライブを楽しんでいる、、そんな人たちからすれば、「とんでもないスピード!」ということになる。 それで驚かせたり、不快感を感じさせたり、場合によっては恐怖感を抱かせたり、、、それは絶対に避けたい。 なので、先をゆく一般車を抜く時、あるいはすれ違うクルマがある時は、その相手に恐怖感や嫌悪感を感じさせないレベルにまでスピードを落とした。 そんな走り方をしたので、部長は、初めのうちは、フェラーリの疾りを、熱さを、気持ちよさを、ただ気楽に楽しんでいただけだった。
だが、しばらくすると、上記のような、僕の周囲への気配りなどにも気づくようになり、「他車への気配りは大切ですね。わかってはいましたが、今日改めて、強く実感させていただきました」との言葉をいただいた。 そして、いよいよ、主目的である「限界領域」のセクションがやってきた。 親しい実験部員が僕のもとに来て小声で耳打ちした。「部長は、岡崎さんの走りで限界領域のあれこれを体験したいんです。極端なことを言えばスピンまで期待しているようなフシがあります」と、、。 僕はちょっと驚きはしたが、「そうかもしれないな」とも思った。そして、すぐ、「スピンさせるとしたらどこのコーナーがいいか」と、頭の中でイメージを巡らせた。 そのコーナーはすぐ浮かび上がってきた。道幅の広い上りの右中速コーナー。路面もきれいだ。