目指したのはプレミアムスニーカー 新型レクサスの小型高級車革命
トヨタ自動車のコンパクト多目的スポーツ車(SUV)「レクサスLBX」。人気の市場に投入された新型車の一つだが、実は注目はその価格。460万円(税込み、以下同)からと、このクラスにしては高く、多くの自動車メーカーが夢見て挑戦しては退場を余儀なくされ続けた「小さな高級車」を目指した。勝率の低いチャレンジに乗り出したことは評価に値するが、さて市場での評価はどう出るか。 【関連画像】スタイリング面でも一工夫。グラマラスな印象の強いリアーはその一例だ 「『(週末などに)ふとスーツを脱いでTシャツとスニーカーになる。そういう時に気負いなく乗れるクルマが欲しいんだよな』。豊田章男会長の、そんな一言がきっかけなんです」 これは、2023年12月に国内発売された、新型のコンパクトSUV「レクサスLBX」のチーフエンジニア、遠藤邦彦氏の言葉だ。これを聞いて私は驚いた。確かにLBXのプレスリリースには、「ブランドホルダー豊田の想いをもとに、『本物を知る人が、素の自分に戻り気負いなく乗れるクルマ』を目指しました」とあるが、本当にそうだったとは思わなかったからだ。 今までにない「高級車をつくる」「スポーツカーをつくる」時には、どこかしらに誰か一人の担当者のビジョンや情熱が原点にあることが多い。確かに、よくよくレクサスLBXの商品特性を検証してみると、ブランドホルダーの豊田章男会長のような立場の人の声がなければ、LBXは生まれなかった可能性があることがよく分かる。 LBXは、全長4.2m弱で全幅は1.8m強のコンパクトサイズのクロスオーバーSUVで、搭載するパワートレインは1.5Lの直列3気筒ハイブリッドエンジンのみ。しかも価格は460万円から。同じコンパクト系のボディー骨格を採用している「ヤリス クロス」ならハイブリッド版を229万円スタートで買える。ほぼ倍であり、ぶっちゃけて言うと、物価高の時代とはいえこのクラスとしては率直に高い! と思う人も多いはずだ。 また、室内スペースはレクサスLBXとヤリス クロスとでは、全くと言っていいほど変わらないし、燃費も逆に装備が少なく軽量なヤリス クロスの方がよい。WLTC(世界統一試験サイクル)モードでレクサスLBXが27.7km/Lなのに対し、後者は30.8km/Lだ。 ●挑戦しては失敗続きの「小さな高級車」 値段も高いし燃費も悪い。こんなクルマをトヨタがあえて世に送り出した理由は、世界的に見ても歴史上成功した例が少ない、「小さな高級車」という難題に対する同社なりの回答だと私は考えている。 この手の挑戦はほぼ失敗しており、あまたあるクルマが生まれては、市場に受け入れてもらえず消え去っていった。当のトヨタも1990年代に鳴り物入りで「プログレ」を開発したものの1世代で終えたし、初代クラウンをモチーフにして2000年に送り出した「オリジン」も、もともと限定だったとはいえつくったのは約1000台のみにとどまる。 というわけで、そもそもマーケティング主導だったら、レクサスLBXは登場しなかったに違いない。数字やデータではあり得ないからこそ、ブランドホルダーの思いがレクサスLBX誕生の場面でものを言ったような気がする。