サニブラウン育てた福岡アカデミー 目指せ第2の冨安健洋 キーワードは「IDP」【アビスパ福岡アカデミー密着②】
J1アビスパ福岡U―18(18歳以下)のFWサニブラウン・ハナン(18)とFW前田一翔(18)が来季トップチームに昇格する。2人の成長を加速させたのが、弱点の改善より個性を伸ばすため、選手個々の育成を計画する「IDP(Individual Development Plan)」だ。2021年に導入したこの取り組み。大きなきっかけとなったのが、アカデミー(育成組織)で育ったDF冨安健洋(アーセナル)の存在だ。 ■「かわいいいいいいいいいいい」公式チアのポニテ姿【実際の投稿】 ◆ ◆ 冨安は高校在学中にU―18からトップチームへ昇格。19歳で欧州に挑戦し、世界最高峰リーグのイングランド・プレミアリーグで戦うまでになった。間違いなくアビスパ福岡アカデミーの〝最高傑作〟だ。 だが、長年アカデミーに携わる井上孝浩アカデミーダイレクターは「環境を与えたし、サッカーも教えた。でもみんなに戦略的、計画的に育てるメソッド(方法)があり、同じ考えの下で育てたか。まだまだそういったのは感じられなかった」と明かす。 福岡は地元クラブへの配慮からU―12(12歳以下)を置かなかった時期がある。経営難の影響もあってスタッフの人材が足りない時期も長く、複数の役職を兼務する指導者もいたほどだった。九州では西川周作(現浦和)や清武弘嗣(現鳥栖)らを輩出した大分や、松岡大起(現福岡)や福井太智(現アロウカ)らを育て、22年に高円宮杯U―18プレミアリーグで初優勝した鳥栖が台頭。福岡県内の人材も流出した。 「福岡の子に鳥栖ではなくアビスパに振り向いてもらいたい。次の冨安を出さないといけない」。危機を感じた福岡は21年のJ1復帰を機に、アカデミー強化に本腰を入れた。
「ワールドクラスの選手を育てたい」
強化の道しるべとなったのが、Jリーグの方針だ。2019年、イングランドの育成組織を整えたテリー・ウェストリー氏をJリーグに招聘(しょうへい)。「Project DNA」と銘打ち、各クラブの指導者育成や指導環境の整備に乗り出した。IDPもその一環。「ワールドクラスの選手を育てたい」というのが願いで、特に地方から冨安を育てたアビスパ福岡への期待は高かった。 Jリーグが開催したアカデミーコーチを束ねる「ヘッドオブコーチング」の養成プログラムに、井上氏は参加。一足早く参加していた元仙台ユース監督の壱岐友輔氏をクラブに招き、2人を中心にIDPを練り上げた。 井上は言う。「いきなり現場でやれと言っても、やることが多すぎて分からなくなる。現場の理解度や納得感を見ながら少しずつ進めていった」。U―12やU―15といった年代の枠も超えた情報共有を徹底。個性を伸ばす練習メニューも積極的に話し合って決めた。1人の選手の長所や短所、練習プログラムも指導者全員で共有した。U―18の練習時には他のカテゴリーのコーチが「IDPコーチ」としてサポート。選手一人一人の課題に向き合えるようになった。 ハナンも瞬発力を生かすため「動き出すタイミングや、常に相手の後ろを取るなど、ボールを受ける前の動きを教わった」。ノルウェー代表FWハーランド(マンチェスター・シティー)の映像を見て学ぶ機会も大きかった。 個性重視の育成は、ときとしてチームの方向性が迷走しがちだ。だが、クラブが掲げるフィロソフィー(哲学)を明確化していた福岡に迷いはなかった。(後日掲載の③に続く)